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コラム/近況報告
掲載日: 建物・建築

タイトル事例紹介(6)◆カビも建築集中部も怖い事件①◆

◆平成28年に係属した訴訟が令和4年に終わりました
 昨秋、本訴提起から足掛け7年(私が、本訴被告かつ反訴原告代理人として受任してからは同6年)という建築訴訟がようやく決着しました。訴訟の終了原因は調停成立、つまり第一審で終わっているというのに(制度的には控訴審でも付調停はありうるのでしょうが、実務的には聞いたことがない)、私史上で受任期間最長の事件となりました。
 第一審で7年なんて未知の公害か薬害の集団訴訟かという感じで、審理が長期化しやすい建築訴訟でも普通はありえません。係属期間の問題に加え、訴訟の経過も結末も、やや~かなり不本意なものとなってしまったのが痛い痛い痛い・・頭痛が痛すぎて馬から落馬しそう。
 そうなった理由はネット上であけすけに語れるようなものでなく、訴訟係属中のことは思い出したくもないという心境の一方、ある程度の振り返りと総括をして、この事件を自分の中で成仏させたいという心持ちでもあります。
 ということで、この事件にまつわる諸々を、書ける範囲(を超えているもしれない)で書いてみます。気持ちの清算だけでなく、建築知識や、今後も調停事件を手掛けるうえでの留意点について、極力汎用的な備忘録になりそうなトピックを取り上げたいと思います。

◆事案の概要
 本件は、欠陥の総合商社とでも称すべき建物(+外構)に関する、ザ・建築紛争という事件でした。
 事案・瑕疵・訴訟経過の概要は下記リンク先をご参照ください。
*事案・訴訟経過:判決・和解事例報告レジュメ(欠陥住宅全国ネット東京大会)
*瑕疵の概要(上記レジュメ)補足:瑕疵一覧表(建物)瑕疵一覧表(塀)

◆建築技術関連-結露・カビにつながる設計施工-
 バラエティに富む本件建物の欠陥のうち、居住者の方にとって最も深刻だったのが、結露とカビの問題です。
 建物の構造耐力や防耐火関係などの欠陥は、どんなに深刻な施工不良でも災害が起こるまで危険は現実化しないのが普通ですが、雨漏りや結露など日常的に繰り返される不具合事象は、普通に生活するうえでの大きな支障となります。これらはいずれ、内装材・構造材のカビや腐朽、ひいては建物の構造安全性や耐久性の低下、居住者の健康被害にもつながりますし、原因である欠陥は早急に対処すべき重大なものです。
 上記レジュメと重複するところもありますが、結露やカビに関係する本件建物の主な瑕疵について、他物件の実例も交えつつ、少し詳しく解説したいと思います。
 なお、建物がカビだらけになった事例は、事例紹介(5)◆フランチャイズ住宅の建築紛争②◆でもご紹介したところです。そちらの建物は、結露やカビの発生に特殊なフランチャイズ仕様が関係していましたが、本件建物に生じたそれら不具合の原因は、一般的な工法の住宅でも普通にありうる設計施工不良です。

◇断熱構造が残念過ぎる
*断熱層の欠陥はけっこう多い
 法も大改正されるなど、建築物の省エネ化は近年の重要な国策となっており、建物の断熱性能にも注目が集まっています。そのトレンドで断熱工事の技術水準も向上していけば良いのですが、これまでのところ、決してその施工レベルが高かったとはいえません。
 断熱層の欠陥は、居住の快適性や省エネ性に直結するだけでなく、結露やその拡大被害(カビ・腐朽→建物の性能劣化等)の重大要因となる侮れないものです。そうした欠陥の多発には、意図的な手抜きの横行という以前に、施工者の多くが相当に知識不足だという背景があるように思います。
 建設業界一般の傾向として言い切ってしまうと語弊があるかもしれませんが、少なくとも私が仕事で関わった内断熱の木造住宅の多くは、断熱層周りに何かしらの欠陥がありました。
 特に、断熱材が吹き付け系(断熱工事専門業者やメーカー認定業者が施工する)ではなく、張り付け・はめ込み系(というのか知りませんが、一般に大工職人が施工するグラスウールやロックウールなど)の場合、「断熱層の役割や適性施工がそもそも理解されていないのでは」と思ってしまう、激しめの施工不良が随所に見受けられたりします。本件建物はその最たるものといったところです。

*断熱層が連続していない
 断熱層は居住空間をすっぽり覆う状態、つまり建物が外気に接する部分(外壁、最下階床または基礎、最上階天井または屋根、それらの取り合い部)に連続して設けなくてはなりません。断熱層の欠損(不連続)は、その箇所に結露や熱損失を生じさせる欠陥ということになります。


硝子繊維協会「グラスウール断熱材 充填断熱施工マニュアル」

 こうした断熱施工の「基本のキ」を理解していないと思われる欠陥が、天井裏の断熱層によく見られます。
 天井面に隙間なく断熱材を敷き詰めることは当然として、天井に高低差がある場合はその段差部分にも断熱材を施工しなくてはなりません。これが見過ごされがちで、天井断層に垂直方向の欠損が生じてしまうのがあるある欠陥ですが、本件建物はその箇所が非常に多いです。


九州住宅検査システム(山﨑亮一建築士)作成の調査報告書より抜粋(後掲の本物件写真も同じ)

 こちら↓は、別物件①の例です。
 居室吹き抜け部分等の勾配天井や、隣接する平天井には断熱材が施工されていますが、その天井段差部分(吹き抜けの壁上部)は未施工です。
 これだけ高低差があって、さすがに現場監督あたりはおかしいと思わないのかと驚くレベルですが、どうも施工管理や工事監理がまともに行われていない現場だったようです。

 同じ物件です。小屋裏収納の壁に断熱層が施工されていないだけでなく、その下部には石膏ボードさえ張られていないため、小屋裏収納の床と1階居室天井の間に外気が常時侵入する状態です。


*気流止めにも注意

 天井断熱層の絡みで要注意なのが、壁上部の「気流止め」です。
 壁内に外気が侵入しないよう、乾燥木材や断熱材で壁の上端を塞ぐ処置のことで、通常は天井面に断熱材を敷き込む前に施工します。


旭ファイバーグラス㈱「グラスウールの断熱施工推奨マニュアル」

 本件建物は、上記の天井段差部分もそうでないところも含め、壁上部に気流止めが全くなく、外気が壁内に侵入し放題です。
 なお、本件建物は、1階部分の断熱区画不良のため(後述)、竣工当初から、外気が1階天井裏を経由して各階の壁内まで侵入し、屋内に異常な結露を生じていました。
 施工会社は、そうした結露の発生機序を理解せず、建物の換気を高めれば問題は解決すると思ったのか、小屋裏の外壁に換気口を後付けしています(その施工方法が手抜きで、外壁防水の欠陥となりました)。これによって、気流止めのない2階の壁上部からも壁内に外気が侵入することになってしまいました。
 確かに、小屋裏換気によって、1階天井裏から2階壁内に侵入した外気が、壁上部→小屋裏というルートで屋外に抜けやすくなったという面もあるのかもしれませんが、だとすれば、1階天井裏から2階壁内に外気を引っ張る圧力は従前より高まっているはずです。そんなふうに、屋内で外気由来の気流を促進したところで結露が改善するはずもなく、壁内はカビだらけになっています

 壁付けのスイッチやコンセントボックスのプレートを外してみると、鋼板は錆だらけで、壁内部からは外気が吹き出してくる状態です

 給湯器リモコンの液晶内部まで結露していたそうです。使用していないのに勝手に音声が流れることもあったそうで、怖すぎます。。

 こちら↓は、前掲の別物件①です。
 やはり気流止め未施工ですが、本件建物と違って平天井の部分はほとんどがツライチなのですから、せめて、間仕切壁上部も覆う形で天井面に断熱材を敷き詰めれば良いところを、壁上部はすっぽんぽんです。

(続く)

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