Topページコラム/近況報告法律 › 欠陥住宅全国ネット東京大会に行ってきました-木造建物の安全性-(2)
コラム/近況報告
掲載日: 法律

タイトル欠陥住宅全国ネット東京大会に行ってきました-木造建物の安全性-(2)

◆仕様規定の疑義問題
 佐藤建築士のご講演で取り上げられた具体例が非常に印象的でした。いくつかピックアップします。

*基礎
 建築物の基礎の構造(建基法施行令38条3項)として遵守が求められる「国土交通大臣が定めた構造方法」(平12建告第1347号「建築物の基礎の構造方法及び構造計算の基準を定める件」)は、鉄筋コンクリート造のべた基礎スラブについて、仕様規定として厚さ(12㎝以上)や配筋(径9mm以上の鉄筋を縦横に30cm以下の間隔で配置)の基準を設けています。
 しかし、この仕様規定の最低基準(スラブ厚12㎝、配筋D10@300)を採用したプランの場合、基礎スラブについて、構造計算上安全性が確認できる区画は1坪にも満たないということです。
 佐藤建築士は、こうした告示基準の実情からすると、4号建物であろうと、基礎設計(スラブのスパン、厚さ、配筋)にあたって構造計算による安全確認は必須だと解説されていました。
 そうすると、上記告示の仕様規定は、構造計算結果がOKであったとしても、規定値未満の仕様(設計)としてはならない旨を定めたものだと解釈すべきなのでしょう。

今大会の資料(株式会社M’s構造設計・佐藤実建築士の基調報告レジュメ)より引用

*木造建築物の壁量
 建基法は、いわゆる壁量について、仕様規定として計算基準を定めています(施行令46条4項)。
 その壁量計算はOKでも、許容応力度計算における地震力(*)を前提とした必要壁量の充足率は50~60%程度というプランが取り上げられました。
  (*)QEi(建物のⅰ階に加わる地震力)=Ci×ΣWi
     Ci(層せん断力係数)=Z×Rt×Ai×Co
     Z:地震地域係数(昭55建告1793)
     Rt:振動特性係数(同上)
     Ai:層せん断力分布係数
     Co:標準せん断力係数(≧0.2 地盤軟弱区域は≧0.3)
 この壁量問題は、全国ネット金沢大会の特別講演(構造設計一級建築士・金箱温春氏ご担当)でも言及されていたところです。
 壁量の仕様規定について、文献(いわゆるグレー本「木造軸組工法住宅の許容応力度設計」2008年版)では、「地震力に対する必要壁率の値は、令46条の表2に示されているものであり、これは、屋根重量が軽い屋根で約600N/㎡、重い屋根で約900N/㎡というように、一般的な仕様ををもとに設定されたものである。そのため、屋根重量や小屋組、外装材、ベランダ等が通常以上に重いと考えられる場合、また、通常以上の積載荷重が見込まれる場合においては、それに応じて十分な耐力壁を設ける必要がある」(49~50頁)と解説されています。
 しかし、上記事例のプランは、特に建物重量が大きいという設定ではなかったと記憶しています。なお、ネット上には、同一の建築プラン(壁量)について、①建基法の仕様規定(壁量計算)、②品確法の性能表示壁量計算(耐震等級2)、③許容応力度計算の3パターンで算出した設計用地震層せん断力の比較情報などもあり、①<②③という結果となっているのが興味深いところです。

*木造建築物の壁配置
 壁量計算規定(建基法施行令46条4項)において遵守が求められる「国土交通大臣が定める基準」(平12建告第1352号「木造建築物の軸組の設置の基準を定める件」)は、壁の配置バランスに関する仕様規定(いわゆる「四分割法」)を定めるものです。
 同告示の基準では、❶建物各階の各側端部分の壁量充足率(存在壁量/必要壁量)が1を超えること、❷X・Y各方向ごとの壁率比(小さい方の壁量充足率/大きい方の壁量充足率)が0.5以上であることのいずれかを確認すれば良いこととされています。
 しかし、❶がOKであっても、❷がNGであるのみならず、許容応力度計算もNGとなる(許容値の0.3をはるかに超える)プランがありうるということです。

 佐藤建築士は、四分割法で壁配置を検討する場合、壁率比の確認は必ず行うべきであり、壁量充足率の値による例外を認めるべきでないと指摘されていました。
 構造設計一級建築士の視点からすると、仕様規定としての壁充足率の確認のみでは性能の担保にならないものの、同じく仕様規定である壁率比がOKの場合に、構造計算がNGとなることはそうそうないということなのでしょうか。

*水平構面の問題
 仕様規定としての壁量計算は、各階の水平構面が大きく変形しないことを前提(剛床仮定)として成り立っているものですが、その前提を崩すような設計が横行しているとのことです。
 不適切な位置や広大な吹き抜けがその典型例であり、佐藤建築士によると、そうした設計のほとんどが、構造計算NGになるだろうということでした。

 なお、木造の水平構面に関する仕様規定として、床組・小屋組には「木板その他これに類するもの」を打ち付けるべしとされていますが、「これに類するもの」である火打ちを使用する場合、床組・小屋組の隅角部のほかは設置箇所に関する規定がなく、設置量や配置に関する壁量のような計算基準もありません(建基法施行令46条3項、平28国交告691)。これらは設計者判断に任されている現実があり、建基法の立て付けとして、木造の水平構面に関する取り締まりは、壁量関係以上のザル状態となっています。
 仕様規定の適否以前の問題ですが、私がこれまで調査に伺った住宅のいくつかは、吹き抜け部に火打ち材が設置されていませんでした。

*こぼれ話
 建基法仕様規定自体の問題からは少し離れた、興味深いお話もありました。
 「はり、けたその他の横架材には、その中央部附近の下側に耐力上支障のある欠込みをしてはならない」こととされています(建基法施行令44条)。
 耐力上の支障を生じさせる目的で材を欠き込むことは普通考えられませんが、梁や桁に間柱設置のための欠き込み(現在ではほとんどプレカット)が設けられているのに、間柱が設置されずにその欠き込みが放置されることがあるようです。
 引張応力が生じる横架材の中央下端にそうした欠損があると、応力集中部(材の弱点箇所)になるのだろうと理解できますが、部分的に欠損がある横架材よりも、欠損高さに合わせて下端を全て斫り取った梁の方が曲げ性能が大きいというのは目からウロコでした。
 梁下端に10㎜高の欠損がある成300㎜の梁は、全般的に成290㎜の梁よりも、曲げ性能が40%劣るそうです。

今大会の資料(株式会社M’s構造設計・佐藤実建築士の基調報告レジュメ)より引用

◆4号建物に絡む建築紛争の論点について考えてみた
 今大会の基調報告を受けて、4号建物に絡む仕様規定の問題と、「瑕疵(=契約不適合)」概念と、瑕疵に関する設計施工者等の不法行為責任との関係について、朦朧としてきた頭で考えてみました(おそらく、同テーマの金沢大会の直後も考えていたはずですが、忘れてしまった;)。

*やっぱり瑕疵だと思うんですが
 新築工事や売買の対象である4号建物が、建基法の仕様規定には合致するものの、(非4号建物については義務付けられている)構造計算によって確かめられる安全性を欠く(※)という場合、その性状は建物の瑕疵(新築工事の場合、施工ではなく設計の瑕疵)といえるのかと考えるに、それはやはりそうでなければおかしいと思います。
 この点、裁判官が執筆した文献に首肯しがたい見解が述べられていたり、(地裁レベルですが)変な判決が出たりもしているようです。
 しかし、建基法は、4号建物と非4号建物について、性能的に異なるレベルの安全性を設定しているわけではないこと(全ての建築物について等しく「自重、積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧及び水圧並びに地震その他の震動及び衝撃に対して安全な構造」であることを要求している20条の立て付け)からすると、(※)の瑕疵性は当然に肯定されるべきではないでしょうか。
 設計施工にせよ売買にせよ、契約当事者の合理的意思として、目的物である建物の性能について上記(※)を予定しているとは評価しがたいと思うのです。
 消費者としては、建物が建基法の仕様規定に合致するかどうかはむしろどうでもよく、その性能面で、(行政取締法規として、建築行為の自由に「最低の基準」による制限を加えている)建基法に合致することを期待しているはずです。
 供給者側としても、4号建物について、(現実にそんなことを突き詰めて考えているかはともかくとして)仕様規定遵守によって確保される性能が構造計算によって確かめられる安全性能よりも劣ることや、建基法の(建物の種別によるレベル差があるわけではない)「最低の基準」としての安全性能を欠くことを想定しているとは思われません。

*不法行為責任(故意過失)は認められるのか?
 本来、建基法の「仕様規定遵守=(安全率の余裕をもって)性能OK」であるべきところが必ずしもそうではないという事実が諸悪の根源ですが、それでも、上記(※)の場合に契約上の瑕疵性は否定されるべきでないというのが上記私見です。
 そして、構造安全性に関わる瑕疵は、いわゆる「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」にあたるものが多いと思われますが、その場合、建物の設計者には(場合によっては施工者も)故意過失が認められて不法行為責任を負うのでしょうか。
 設計者らとしては、「4号建物は構造計算が義務付けられていないのだから、仕様規定を遵守した設計施工をすれば足りる。その結果、構造計算NGであろうが故意過失はない」と主張するでしょう(それ以前に、瑕疵性も争うのでしょうが)。
 確かに、設計施工上の行為規範として、建基法の仕様規定が機能しないとは易々と言い難いように思われ、この場合に設計者らの(少なくとも)過失を主張するには、「建基法の仕様規定は質・量ともに不十分で、構造計算OKとなる性能に対して安全余裕があるどころか、思いきり性能が不足することくらい建築士なら知っている(もしくは知っているべき)」という趣旨の立論をすることになりそうです。
 言い換えれば「法律(建基法の仕様規定)が間違っていることを認めよ」と裁判所に正面から迫ることになり、なかなか厳しい話のような気がします。
 もっとも、上記(※)のような4号建物の多くは、その設計に標準仕様から外れた特徴(大スパンの居室や、スキップフロア・吹き抜けなど各階で完結していない水平構面)があります。
 構造計算NGとなりやすい設計例を参考に、4号建物であっても構造計算による安全性確認が望まれる設計パターンをガイドライン化するなどすれば、設計者の過失が認められやすくなるのではと思ったりしますが、そこから漏れてしまうプランについて設計上の過失が完全否定される方向に結びついてしまうことも懸念されます。
 そんなガイドラインを作るより、構造方法に関しては仕様規定を全廃してしまうか、現行の仕様規定を質・量ともに大幅グレードアップする(どんなプランでも、「仕様規定遵守=確実に性能OK」となるようにする)という建基法改正でもしてもらえれば消費者側弁護士にとって誠にありがたい話ですが、今のところは夢物語なのでしょうか。

◆東京は大都会

 

ページも先頭へ