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コラム/近況報告
掲載日: 建物・建築

タイトル事例紹介(5)◆フランチャイズ住宅の建築紛争②◆

 私が携わったFC住宅の建築紛争事例をご紹介します。

◆FC住宅コンセプト
 そのFC住宅の特長は、高気密・高断熱仕様、太陽光発電によるZEH(ネットゼロエネルギーハウス)です。外壁の断熱層内側には、重ねしろを多くとって防湿気密シートを施工し、床下は基礎断熱とする(外気導入による換気は行わず、機械設備で除湿する)ことで、気密性の指標であるC値(相当隙間面積=建物の全隙間面積c㎡/延床面積㎡)の極小化を図っています。併せて、高断熱仕様(外断熱)や全室空調を採用することで、エネルギー効率を向上させ、結露やカビ発生も防止するというコンセプトでした。
 このFC本部企業のサイトでは、建物躯体や居住者の健康にとって、結露やカビがどれほど害であるかという説明や、「結露する家は欠陥住宅」という見解とともに、自社仕様の住宅は結露やカビとは無縁であると強調されていました。
 建築主の方は、この結露しない家というコンセプトに惹かれて本部企業サイトから資料請求し、紹介された地場の加盟工務店との工事請負契約に至りました。
 ところが、竣工間もなくから、壁や天井梁のクロスに黒ずみが目立つようになりました。FC本部担当者や工務店立ち会いの下、梁や壁の下地(石膏ボード)を部分的に外してみると、石膏ボードや梁・柱にはカビが生えていました。
 新築工事中の施工写真によると、基礎スラブ内に雨水が溜まった状態で床合板が張られたり、雨に濡れた柱や梁が乾かないうちに防湿気密シートで覆われたりしていたことから(その後、シートの内側に結露水が付着したため、大工がシートをカッターで切って外部に排水していたそうです)、床下や壁内が全般に高湿状態となりカビが発生したと容易に推測されるところです。建築主の方は、FC本部や工務店に建物全体の調査と抜本的な対策を求めましたが、部分解体箇所にカビ除去剤が塗布されたのみでした。
 カビの発生箇所が増えていき、建築主の方がやむなく自費で建物全体の調査を行ったところ、壁や梁のほか、床下地合板の広い範囲にカビが生えていることがわかりました。
 また、建物躯体の構造的欠陥や省令準耐火構造違反、防火構造違反を含む外壁施工に関する諸々の欠陥が判明し、FC本部、加盟工務店、主任技術者(工務店代表者でもあります)、設計監理者を提訴することととなりました。

◆FC仕様特有の欠陥
 本件建物の欠陥には、FC仕様に直接関係しないもの(軸組緊結不良や省令準耐火構造違反等)と、FC仕様と密接に関連するものとがありました。
 後者の主な欠陥を挙げてみます。

◇外壁通気胴縁未設置
 本件建物は、いわゆる法22条区域の木造建築物であり、延焼ライン内(隣地境界等から1階は3m以下、2階以上は5m以下)の外壁を準防火性能とすべき関係上、建材メーカーが大臣認定を取得している外壁防火構造への適合が求められます(準防火構造の大臣認定を取得している場合は、その仕様に合わせれば足りるのですが、ほとんどの建材メーカーは、防火構造か準耐火構造でしか認定を受けていません)。また、省令準耐火構造とする関係では、外壁は防火構造とする必要があります。
 本件建物の外装材(サイディング)と断熱材の組み合わせを前提とする認定防火構造は、外装材の下地に木製胴縁(15㎜厚×45㎜幅以上)を設置する仕様です。
 ところが、本件建物の外装材下地には、FC仕様の専用部材である樹脂セパレーター(5㎜厚)が使用されました。
 これは、外壁防火だけでなく、外壁通気構法違反となる欠陥でもあります。
 日本建築学会の標準仕様書(JASS27)、住宅瑕疵担保責任保険設計施工基準(保険基準)、サイディングメーカー施工要領等の技術基準では、乾式仕上外壁には厚さ15㎜以上の通気層を設けることとされています。通気層は、外装材裏面に浸入した雨水を下部の給気口から、湿気を上部の排気口からそれぞれ排出するものですが、その層の厚さ(5㎜)が、所定の15㎜に対して著しく不足している状態です。
 また、本件建物は、外壁通気層下端の給気口が確保されていない(サイディング下端と土台水切りが密着している)という問題もあり、外壁通気が全く機能しない施工状態でした。

◇セメント系耐力壁面材と防湿気密シートの不適合
 外壁通気構法は、建物室内から壁内に侵入する湿気を、通気層を通じて屋外に排出することを想定しています。そのため、通気層の内側に施工する外壁防水紙は、透湿性のあるもの(透湿防水シート)を使用することなります。

 これに対して、防湿気密シートで建物躯体を被覆する本件FC住宅の仕様では、室内側から壁内に浸入する湿気はシートによって遮断され、(セパレーターの5㎜厚しかない)通気層に排出されません。


 問題は、防湿気密シートと、本件建物の外壁に使用されたセメント系耐力壁面材(㈱ニチハ製「あんしん」)の適合性です。セメントは吸湿すると脆くなるため、メーカー施工マニュアルには、「透湿性がない防水紙を使用しないでください」「水分・湿気が滞留すると、性能が損なわれるおそれがあります」という注意書きがなされています。
 この耐力壁面材を、「透湿性がない防水紙」である防湿気密シートで被覆することは、建物の構造安全性(耐力壁の性能)を損なう欠陥にあたります。
→仮に、本件建物の外壁防水紙が透湿防水シートであった場合は、その外側にある通気層厚の不足(通気不良であり、屋外に湿気が十分に排出されない状態)を、耐力壁面材の劣化にも関係する欠陥として評価することになります。

◇外張り断熱材継ぎ目の気密防水テープ未施工
 木造建築の断熱工法は、柱間に断熱材を充填する方式の内断熱と、柱の外側に断熱材を設置する外断熱とがあります(近年、両者を併用する付加断熱方式も流行っているようです)。

 本件FC住宅は、発泡プラスチックのボード状断熱材を使用する外断熱工法です。どの断熱工法でも、断熱層の外側には防水層(防水紙)を設ける必要がありますが、本件建物の断熱材外側には防水紙が施工されませんでした。
 発泡プラスチック断熱材を施工する外断熱工法については、保険基準と同等の性能であると認められる(保険基準第3条に基づく、いわゆる「3条確認」を得た)防水仕様として、断熱材の継ぎ目に気密防水テープを貼ることで防水紙の省略を認める工法がありますが、本件建物では、断熱材継ぎ目の一定範囲にFC独自通気部材の樹脂セパレーターが施工されているのみで、気密防水テープは貼られていません。

 気密防水テープの施工は、断熱層の外側に防水層を形成するほかに、断熱層の気密性確保のためにも必要なものです。メーカー施工マニュアルでは、(外側に防水紙を施工するかどうかによらず)断熱材の性能維持のために、継ぎ目はテープで処理するよう指示されています。
 つまり、断熱材継ぎ目の気密防水テープ未施工は、外壁防水の欠陥である(外側に防水紙を施工しない場合)とともに、断熱層の性能を損なう欠陥でもあります。前者はどんな建物でも許されませんし、後者も、高断熱性をコンセプトとする住宅の断熱層施工としてはお粗末といわざるを得ません。

◇カビの発生
 先述の通り、建物全体調査のきっかけとなった不具合はあちこちに生じたカビでした。
 結露しない、カビとは無縁だとアピールされているFC住宅が、梁も壁も床下もカビだらけになったのですから、ひどい話です。

 当初、カビ発生の原因は、建築途中の雨養生不良→基礎内・軸組材未乾燥状態での床張りや防湿気密シート施工だと分析していましたが、さらに、提訴後にとんでもない問題が発覚することとなりました。

◆FC本部に対する責任追及の法律構成
 欠陥住宅施工者の法的責任は、瑕疵担保責任(民法改正後でいうところの「契約不適合責任」)や不法行為責任となります。
 FC住宅の欠陥について、本部企業の責任論をどう構成するかというのは悩みどころでした。FC加盟店が業務上第三者に損害を与えた場合のFC本部の責任として考えつくのは、一般の不法行為責任(民法709条)、使用者責任(民法715条)、名板貸し責任(会社法9条、商法14条)あたりです。本件のFC本部は、自社サイト上で加盟工務店を●●○○店(「●●」は本部企業の屋号、「○○」は地方名)と表記しており、工事請負契約書にも、加盟工務店の表示と併せて「●●○○店」と書かれていたりするのですが、建築主の方は、FC本部と加盟工務店が別法人であることは認識されているので、名板貸し責任の成立要件である事業主体の誤認はありません。
 そこで、不法行為責任や使用者責任に絞って考えることになりましたが、FC本部のこうした責任について詳細に論じた文献や論文、裁判例などがあまりないのです。
 提訴までに見つけられた裁判例は、東京地判平成24年10月16日、大阪高判平成13年7月31日などです。東京地裁の判決要旨は、(FC本部の使用者責任の成否に関して)独立事業者であり、自らの裁量で営業活動を行う加盟者(フランチャイジー)について、FC本部(フランチャイザー)の使用者性を認定するには、フランチャイジーとの間に実質的指揮監督関係が必要だというものです。つまり、単にFC契約の当事者というだけでは使用関係が認められないということですが、FC本部の使用者性判断基準としては、妥当というほかないように思います。
 大阪高裁判決は、コンビニエンスストアの客が水拭きの床で転倒した事案について、店舗の床材や清掃用具(モップ・水切り)が全店統一規格の特注品や統一支給品であること、FC本部が加盟店に商号を与え、継続的に経営指導、技術援助をしているといった事情から、「店舗の経営主体たるフランチャイジー、又はフランチャイジーを通してその従業員に対し、顧客の安全確保のために、本件のような場合には、モップによる水拭き後、乾拭きするなど、顧客が滑って転んだりすることのないように床の状態を保つよう指導する義務があったというべきである」として、その義務(従業員に対する安全指導、監督義務違反)について、不法行為責任及び使用者責任を認めています。この判決は、商号使用許諾や経営指導・技術援助といったFCシステムの要素そのものをFC本部の責任根拠として挙げていますが、これは、事故発生の要因(床や清掃用具)がFC独自の仕様であることを前提とする指摘として読むべきなのでしょう。
 FC住宅の欠陥についてFC本部企業の責任が争われた事案の裁判例としては、岐阜地判平成19年6月22日(第一審)、名古屋高判平成20年4月21日(控訴審)(いずれも、欠陥住宅被害全国連絡協議会編「消費者のための欠陥住宅判例[第5集]」に収録)があります。
 これら裁判例で取り上げられた住宅の欠陥は、①FCの特長仕様に関するもの(薬剤防蟻処理不要の工法と謳われているにもかかわらず、布基礎と土間コンクリートの隙間からシロアリが床下に侵入し、建物全体に蟻害が生じた)、②それ以外のもの(構造耐力、雨仕舞等に関する施工不良)に大別されます。
 岐阜地裁判決は、FC本部の加盟店に対する指導内容に誤りがあった場合や、加盟店によるマニュアル・法令違反の施工を知り得たにもかかわらず放置した場合でなければ、法令やマニュアル等違反の施工である建物の欠陥についてFC本部は責任を負わないとして、FC本部に対する請求を全て棄却しました。しかし、この判決は、上記①について「基礎と土間コンクリートをつなぐための差し筋跡の隙間」を瑕疵と認定しているにもかかわらず、それが何の「法令」や「マニュアル」違反なのかという認定が落ちており、何だかよくわかりません(布基礎と土間コンの一体性を要求する法令はなく、FCマニュアルに、上記のような隙間を設けない旨の記載があったという事実摘示もありません)。
 控訴審の名古屋高裁判決は、当該建物の工事請負契約締結時までには、同仕様FC住宅の布基礎と土間コンの隙間に起因する蟻害事例を把握していたにもかかわらず、加盟店への注意喚起が不十分であったとして、上記①の欠陥についてFC本部の責任を認めました。

 これら裁判例の傾向から、FC住宅の欠陥のうち、FC仕様と関連するもの(FC仕様の特長的性能に違反するものや、FC仕様との関係上、欠陥防止のために特別の注意を要するもの)については、FC本部の不法行為責任(加盟工務店への指導不足という過失)が認められやすそうであり、その他の欠陥に関する不法行為責任や使用者責任を問うには、注意義務や使用者性の根拠について、個別事案に即した綿密な構成が必要そうだといえます。
 提訴段階ではこのあたりの構成を十分に詰め切れませんでしたが、裁判の過程で、被告FC本部の自社サイトでは、加盟店に対する事前研修のみでなく、個別物件施工段階での綿密な技術指導や消費者への直接サポートを強調していること(実際、契約前の見積段階では、被告FC本部スタッフが建築主と直接のやりとりや面談をしていました)、被告FC本部が展開する住宅商品は、その特長仕様(高気密高断熱やネットゼロエネルギーに関するシステム)のみではなく、構造耐力・防火・耐久性・意匠についても独自性をアピールするなど一戸の住宅全体を対象としていることなどについて主張を補足しました。
 また、FC契約一般論としては、FC本部の使用者性を認めさせるのは厳しいのだろうと思いつつ、「FCシステムの性質上(加盟店を利用することで、投下資本を節約しながら活動範囲を広げて収益を獲得し、その結果、社会に対する危険を拡大する)、同責任を認めることが立法趣旨(報償責任・危険責任)に合致する」「実質的指揮監督関係とは、実際の指揮・監督の有無でなく、指揮・監督すべき関係(規範的指揮・監督関係)にあったか否かによって判断すべきであり、FC契約はこれに該当する」等、論文を引用して主張してみました。
 FC仕様に関連する欠陥については、個別の欠陥ごとに、FC仕様との具体的関連性や加盟店に対する指導不足を論じていきました。

(続く)

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