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コラム/近況報告
掲載日: 建物・建築

タイトル事例紹介(6)◆カビも建築集中部も怖い事件②◆

*断熱区画の設計思想が謎
 本件建物1階は、面積の半分以上を広大なガレージ室が占めており、複数の車両が収納されています。建物の断熱構造的に、この室は屋外・屋内どちらの扱いなのかよくわからないのです。
 実際の建物形状とは違いますが、模式的には、1階の外壁、ガレージ室と他室の間仕切り、断熱材設置状況は下図のような感じです。

 ガレージ室の壁3面は外壁(サイディング仕上)、他室との間仕切りは屋内仕様の壁(木軸+石膏ボード下地、クロス仕上)であり、室内にはエアコンが設置されています。また、天井(2階の床下)には断熱材が施工されていません。
 これらの点からすると、ガレージ室は断熱区画としても屋内扱いなのではと思えますが、それならば他室との間仕切壁を断熱層とする必要はないのに、なぜかそこには断熱材が施工されています。
 何より、出入口開口部に設置されたシャッターが通常(屋外)のガレージ仕様であり、気密性は全くありません。隙間だらけの開口部周りから、室内にも天井裏にもガンガン外気が流入する状態です(ついでに、開口部の軒天材は有孔板のため、そこからもガレージ室天井裏に外気が入ります)。

 こんな開口部を設ける室は、断熱区画としては屋外扱いとすべきです。本来は空調になじみませんし、天井や他室との間仕切壁にきっちり断熱層を形成する必要があります。
 このような室で夏場にエアコンを使った日には、高湿度の外気が露点温度以下の天井や壁に触れることになり、あちこちが結露してカビが生えまくります。車の座席シートにまで、大量のカビが生えてしまっていました。

 

 また、天井裏は他室との断熱区画が極めて不十分で、間仕切壁(石膏ボード)も断熱材も2階床梁まで立ち上げられていないところがあります(施工時点の建築基準法上は、防火上の欠陥にもあたります)。
 そのため、ガレージ室天井裏に侵入した外気は、先述の通り、1階各室の天井裏→各階壁内へと到達することになります。

 ガレージ室を断熱区画的に屋内扱いするのであれば、開口部の建具は完璧に気密性を保てるものとすべきですし(そういう製品がシャッターで存在するのかは知りません)、時々は車のエンジンをかけなければいけないそうなので、強力な局所換気装置を設置すべきでしょう。   
 エアコン設置を諦めてガレージ室を屋外扱いするのであれば、壁の石膏ボードと断熱材は2階床梁まで張り上げて、天井面(もしくは2階床下)にも断熱材を施工するなど、他室との断熱区画をきっちりする必要があります。
 施工会社の社内には建築士もいないようなので、ガレージ室にエアコンを設置したいという建築主の希望を踏まえて、同室を断熱区画上どのような扱い(仕様)とすべきか、誰もまともに検討しなかったのだと思われます。


◇床下換気構造がおかしい

 近時の木造住宅のほとんどは、基礎パッキン(土台と基礎天端の間に設置する通気部材)による床下換気を採用しています。基礎パッキンは、床下への外気導入と排出がスムーズに行われるように建物外周部の全体に敷設する必要があり、通気を妨げるような閉塞箇所を設けてはなりません。
 ところが、本件建物は、(屋外・屋内のどちらだかわからない)ガレージ室部分の土台と基礎天端の間が巾木で塞がれ、通気が遮断されています。そのため、1階他室の外周壁下基礎パッキンを経由して基礎内に侵入した外気は、ガレージ室との間仕切壁部分で堰き止められてしまいます。
 夏場には、高温多湿の外気が基礎内に侵入し、上記間仕切壁付近に滞留することで、低温の基礎立上りや床組材、断熱材の表面に大量の結露を生じています。床下点検口のアルミ枠部分にも結露水が溜まってしまい、直下の木材含水率は、建材の正常値(15~20%)を大きく超える40%程度に達していました。床組材にはカビも生えています。
 おそらく、1階他室より床レベルの低いガレージを屋内扱いする前提で、間仕切り部分の基礎パッキンを塞いだのでしょうが、だとすれば、1階他室部分の床下に機械換気でも導入すべきでした。

 こちら↓は、別物件②の例です。なんと、外壁を地中や外構の土間コンに埋め込んでいます。当然、土台や基礎パッキンも地中等に埋め込まれており、床下換気の閉塞箇所が生じているわけですが、それ以前の問題として、屋外の雨水が基礎パッキン経由で床下に流れ込む状態です。
 やはり、床下は結露やカビが目立ちますし、屋外から基礎内に漏水しています。 よくこんな状態で引き渡したもんだ、木造外壁を地面に埋めるかフツー?!という衝撃物件でただいま係争中ですが、被告はこの施工状態に問題はないなどと主張しています。
 その被告は一部上場某ハウスメーカーのグループ企業で、名前をバラしたい衝動にかられるというものです。上場しているメーカーや傘下企業が、でたらめな施工をしてめちゃくちゃな主張をしてくるという経験は全然初めてじゃありませんが、さすがに外壁埋め込みは見たことがない。。。

*まとめ
 結露やカビの対策としては、・適切な断熱区画を設ける、・区画内に高湿度の外気を大量・継続的に導入しない、・区画内で生じた湿気(水蒸気)は速やかに屋外に排出する、・断熱区画の内外を問わず、湿気が滞留する箇所を作らないといった視点の換気・断熱計画と、不備のない施工が求められます(雨仕舞の施工不良による漏水などがあってはならないことは、当然の前提です)。
 工務店が知識不足というだけでなく、建築士でもこうした理解が乏しいままに設計している人は少なくないという現実があります。

◆こんな契約は要注意
 その他にも、本件建物は安全性や機能に関わる欠陥が山のようにあるのですが、意匠や設備の面でも建築主の意に沿わない点が多く、工事代金の支払についても争いがあるなど(そもそも、施工会社による工事代金請求の本訴提起によって訴訟が始まりました)、契約や工事にまつわるトラブルがとにかく多い事案でした。
 こうした事態は、施工会社が上場メーカーであろうが小規模零細であろうが起きるときには起きますが、やはり、後者の方が要注意度合いが高いです。小規模工務店は施工管理体制が不十分だったり、設計監理を外注している(その外注先の建築士は、少なくとも監理については実質的に名義貸しだったりする)ケースが少なくないからです。
 また、本件もそうでしたが、建築条件付土地売買や工事請負契約に変なブローカーが噛んでいたり、施工会社がその案件の担当社員を選定していない(建築プランの打ち合わせに参加しているのは、建築主のほかブローカーや外注建築士だけであり、施行会社の社員はいない)という事案がたまにあります。これだけでも完全に地雷臭漂う事情ですが、建築主から一応の意向を聞き取ったブローカーと、施工会社の外注建築士の両名だけで打ち合わせをしているというケースさえあります(ブローカーが噛んでいる事案では、建築主が非常に多忙な方であることが多いです)。
 施工会社の一次的な責任者(担当社員)と建築主が直接やりとりをしていない建築計画など、トラブルが多発して当然ですし、そのようなプランニングのやり方がまかり通るのは小規模工務店ならではというところがあります。
 建築主としては、施工会社の選定や建築計画の打ち合わせなどを、むやみに人任せにすべきでないといえるでしょう。

(続く)

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