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コラム/近況報告
掲載日: 近況報告

タイトル欠陥住宅全国ネット金沢大会に行ってきました(2)

 金箱氏のご講演テーマは「熊本地震被害と木造建築物の耐震性」でした。
 熊本地震は、複数断層の連動、短時間に2回の震度7観測、過去最大の地震積算回数という激甚災害でした。これによる建物の被害について、国土技術政策総合研究所等の機関が益城町や熊本市で行った調査結果をもとに、建物の構造種別(鉄筋コンクリート造、鉄骨造、木造)毎のご説明をいただきました。(調査結果の詳細は、国総研ホームページ「熊本地震における建築物被害の原因分析を行う委員会」の報告書にまとめられています)
 それらの調査結果を総合すると、現在の耐震基準に基づく設計で、施工不良も認められない鉄筋コンクリート造建物や鉄骨造建物に倒壊・崩壊したものはないようです。
 しかし、木造建物では、現在の耐震基準・技術基準に基づく設計施工であっても大破・倒壊したものがあるとのことで(今年5月、私が益城町で見た建物もそのひとつだと思われます)、やはり、少なくとも木造建物(そのほとんどが4号建物)については、耐震技術基準を見直していくべきではないでしょうか。
 また、建物の非構造部材(吊天井、ガラスによる開口部等)についても、被害軽減のために技術基準の新設や現行基準の見直しを図るべきか、検討が必要だと思われます。
 大地震動の繰り返しの影響や、構造設計で想定する地震動の大きさに関するお話なども大変興味深く、今大会メインテーマとの絡みでは、木造4号建築物の耐震性能確保の仕組みや問題点について、仕様規定の不備に関する具体例を交えつつ、構造設計専門家の視点から解説していただいたことで理解が深まりました。
 たとえば、木造建物に関する構造規定として、いわゆる壁量規定(建築基準法施行令46条4項)があります。これは、2階以上の木造建物の各階について、耐力壁(壁・・又は筋かいを入れた軸組)の長さが、床面積に応じた所定長さを超えるようにすべきことを定めたもので、この壁量計算にあたって床面積に乗じる数値として、仮定の建物重量に応じた値が設定されています。
 しかし、実際の建物の重量が壁量計算の仮定重量を上回ることはままあり、また、許容応力度計算によって求められる建物の必要壁量は、上記の壁量規定が要求する値の1.5倍以上になるのが通常だということです。構造設計の第一人者である金箱氏が、壁量規定改正の必要性を訴えられ、建物の実情に即した重量計算を元に壁量算定を行うか、許容応力度計算を行うようにすべきだという意見を述べられていたのには、とても説得力を感じました。

 1日目最後の大会アピールでは、4号建物の構造安全性を確保するために、設計にあたって構造計算を法的に義務づけるか、構造計算を行った場合と同等の構造安全性を確保できるように仕様規定を全面改定すること、4号特例を廃止して、建築確認手続において構造安全性の審査を行うべきだとするアピール案が採択されました。

 大会2日目は「建築瑕疵紛争事件において建築士の協力を得る際の留意点」というパネルディスカッションの後、恒例の判決・和解事例報告が行われました。
 7件の事例報告があり、私は、先日のコラムでご紹介した擁壁再築費用請求事件の判決報告を行いました。私の報告事例は、危険なコンクリートブロック(CB)造擁壁で土留めされた土地の売主と、擁壁に近接した位置に建物を配置する設計をした建設会社に対する損害賠償請求の事案でしたが、他にも、CB造擁壁の施工業者に対する擁壁再築費用請求事件の和解事例や、CB造の基礎による建物増築工事を行った施工業者に対して損害賠償を命じた判決の獲得事例など、何だかCB祭り状態でした。私が報告した事例のCB造擁壁は、転倒やはらみが生じるなど、すでに危険性が顕在化した状態でしたが、他の弁護士の方が報告された事例では、CB造擁壁について仕様規定違反という瑕疵の存在だけで危険性が認められ、それを前提とした和解ができたというのは素晴らしいと思います。
 その他にも、勉強になる報告事例が盛りだくさんでした。特に、天井材がアスベスト含有で、天井裏にはアスベストの吹付施工がなされていたという中古住宅の購入者が、売主や仲介業者に対して契約解除や損害賠償を求めた事案の勝訴的和解報告を、とても興味深く拝聴しました。
 購入者が建物の引渡を受ける前の提訴だったうえ、購入者の契約解除通知後に、売主が問題の建物を土地ごと第三者に売り渡し、その後建物が解体されてしまったという、なかなかに立証困難な事案だったようです。天井裏の吹付アスベストが居室へ流入する可能性の立証として、シックハウス事件の裁判の立証に使用されたシミュレーション動画(天井裏の化学物質が、壁内からコンセントボックスを通じて居室内に流入する状況)を証拠として提出されたということで、立証方法も色々あるのだなと参考になりました。

  今回の大会では、今まで特に疑問を持っていなかった4号建物の仕様規定にこれほど大きな問題があることを知り、本当に本当に勉強になりました。これは絶対に、早期の法改正によって解決を図るべき問題だと強く感じるところです。

 余談ですが、大会会場だった金沢弁護士会館の隣が金沢地方裁判所庁舎でした。私が10年以上前に見た金沢地裁の建物はかなり年季が入っていましたが、今では現代美術館のようなスタイリッシュな建物に建て替わっていて、敷地入口の裁判所表示もやたらポップな字体だったことに軽く衝撃を受けました。

金沢大会写真①

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