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コラム/近況報告
掲載日: 敷地・地盤

タイトル事例紹介(3)◆擁壁再築費用請求事件①◆

 先般、3年以上裁判をしていた擁壁に関する事件が終了しました。そのご報告です。

 依頼者ご夫婦は、高さ約1m強~4m弱の擁壁で土留めされた福岡市内の土地を購入して自宅建物を建築した後、擁壁に近接した建物の付属設備や外構部分に不具合が生じたことから、擁壁の傾斜やはらみに気がつきました。
 この土地は相当古い時期に造成されたものなのか、周囲の擁壁は、本来は土留めに使ってはいけない塀用のコンクリートブロックで造られていました。
 擁壁は背面の土を支えるために設置されるものですから、その土圧や水圧に耐えられるだけの安定性が必要です。これに対して、コンクリートブロック塀はあくまで塀であり、土圧がかかることを想定した造りではないので、基本的に擁壁の代用とすることはできません(ただし、後記の通り、各自治体が一定の例外を認めています)。
 さらに、この擁壁には、斜面の途中に設置されている部分や、隣地内に設置された擁壁と近接した二段擁壁となっている部分があるのですが、これらの部分は、斜面上の擁壁設置基準や二段擁壁設置基準に違反した状態でした。
 また、擁壁に水圧がかからないようにするための水抜き穴もなく、基礎は捨てコンクリートで代用されているなど、擁壁設置基準違反のオンパレードといった状態です。

 このような危険な擁壁は土地の瑕疵(欠陥)にあたりますから、そのことを知らずに土地を購入した買主に対して、土地の売主は瑕疵担保責任を負います。
 また、この土地上の建物の設計者は、仮に擁壁が崩壊した場合にも、崖崩れの影響を受けることのない位置に建物を配置する設計をすべきでした。もしくは、建築主に対して安全な擁壁に造り替えるよう指示すべきだったといえます(建築基準法19条4項参照)。
 ところが、依頼者ご夫婦から建物の設計施工を請け負ったハウスメーカーは、擁壁の危険性について建築主に何も説明しないまま、擁壁に近接した位置に建物を配置する設計としたうえ、設計図書には、虚偽の隣地高低差を記載して建築確認を取得し、工事を強行しました。
 こうして擁壁の近くに建物が建てられたことで、擁壁が崩壊した場合には、崖崩れの範囲が建物の基礎梁の下にまで及ぶことになりました。
 また、更地の場合に比べて、擁壁を安全なものに造り替える費用も格段に上がってしまいました。擁壁と建物との距離の関係で、更地の場合とは設置できる擁壁の構造自体が違ってくることや、擁壁再築工事の際に、建物の基礎をアンダーピニング工事で支えたり、建物の付帯設備や外構を一時撤去して原状回復する必要があるためです。

 提訴前の交渉段階で、ハウスメーカーはある程度責任を認めるような態度を見せていたのですが、最終的に工事の実施も損害賠償も行わないと回答してきました。
 そこで、土地の売主に対しては更地の場合の擁壁再築費用等、ハウスメーカーに対しては建物建築による擁壁再築費用の増額分等について、損害賠償を求める訴訟を提起しました。

(続く)

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