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コラム/近況報告
掲載日: その他

タイトル熊本被災建物調査のご報告(2)‐1

 5月8日に欠陥住宅ふくおかネットのメンバーで熊本被災建物の調査を行った後、新たに調査のお問い合せがあった被災建物について、先週5月25日、当ネット所属の弁護士4名、建築士2名が調査に出向きました。

 まず2件の調査依頼があった益城町に向かい、建築士1名、弁護士2名ずつの2チームに分かれて調査を行いました。
 私のチームが最初に調査した建物(木造軸組工法2階建)は、2階部分には目立った損傷がないように見えましたが、1階部分が完全に潰れていました。築年数わずか4年なのに本震で全壊したということでした。
 それだけでも驚きなのですが、所有者の方によると、その建物は耐震等級2の設計だというのです。耐震等級2は、建築基準法が目標とする耐震性能の1.25倍の性能に該当します。基準法は震度7程度の大地震に対しても倒壊しないという耐震性能を目標としているので、耐震等級2の建物が上記のような壊れ方をするというのは解せないものがあります(両隣の建物もかなり大きく損壊していましたが、調査対象の建物のように階自体がまるまる潰れているわけではありません)。
 これは、1階部分の軸組の施工に相当大きな問題があるのでは・・と思い、建築士さんと一緒に建物周りから1階部分をのぞき込んだり、それ以上圧壊しないように天井と床が心張りされたスペースには立ち入ってみたりしましたが、むき出しになった軸組材には、アンカーボルト、ホールダウン金物、柱頭柱脚金物、梁や桁の継手緊結金物、羽子板ボルト・・と、所定の位置に所定の金物がきちんと施工されていた様子です。
 もちろん、1階全体が潰れているくらいですから、柱と土台、柱と梁などの接合部(仕口)のほとんどがバラバラになっているのですが、柱の脚元(柱脚)には所定本数の釘で留められた接合金物が残っており、土台には、接合金物の下半分を留め付けていたと思われる釘が残っていたりします。つまり、柱と土台の接合部はきちんと金物で緊結されていたのですが、金物の釘孔周辺部が破断してしまい、土台部の釘から金物が抜けてしまったようです。 

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 また、接合金物が柱と土台の双方に取り付いたまま、土台自体が裂けてしまっている箇所もありました。 

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 こうした軸組の損壊状況から、以前見たことのある木造柱脚接合部の振動実験映像を思い出しました。軸組の接合金物は硬ければ硬いほど良いと思われがちですが、非常に硬度の大きい金物を取り付けた柱脚接合部に垂直方向の振動を加えると、金物は破損・変形しないものの、金物を留め付けている釘が柱の木材を破断してしまい、結果、柱脚は土台から離れてしまいました。一方、適度に軟らかい金物を取り付けた柱脚接合部の場合、振動によって金物本体が変形(伸展)し、柱脚と土台の部材自体に隙間は生じるものの、変形した金物によって一応接合したままの状態となっていました。
 現在の耐震基準は、中地震時の損壊と大地震時の倒壊を防止するために、建物の強度や剛性(変形しにくさ)と靱性(粘り強さ)のバランスを重視しています。私が見た実験映像のような金物の粘りも、建物全体の靱性確保につながるのだと思いますが、今回調査した建物では、柱脚部の壊れ方がそうした形態ではなかったのを見て、あれっと思いました。上記の実験に使われた金物と今回調査した建物の金物では、製品も違えば、振動の大きさや入力方向、金物が取りついている木材自体の強度などの条件も異なるので、柱脚部の壊れ方も違ってくるのでしょうが・・。
 調査建物に使われていた金物も、平成12年建設省告示第1460号「木造の継手及び仕口の構造方法を定める件」に対応しているZマーク表示金物で、もちろん欠陥品というわけではないのですが、こういう震災を経て金物の仕様自体も改良されていくのが望ましいのかと思います。

 ともあれ、築浅で耐震等級2なのに全壊したということで、この建物は工学博士の大学教授が先行して調査に入られ、その模様がNHKで報道されたようです。
 所有者の方のスマートフォンでそのニュースを見たのですが、大学教授の方は、1階が大破した原因として、2階の外周壁の直下に1階の壁がない箇所があることを指摘されていました(そういう設計の建物はバランスが悪いそうです)(※)。
 もし、そうした設計が1階倒壊の要因だとすれば、今後の法改正で耐震設計の見直しが求められる問題かと思います。一般的な規模の木造住宅は、いわゆる4号建物として、建築確認申請の際、構造計算書類も、仕様規定である壁量の計算書類も提出する必要がなく、設計者が構造安全性の検討をきちんと行っているのかはブラックボックス状態になっていますが、今回の調査建物は耐震等級認定がある以上、耐震設計について検査機関の審査を受けています。つまり、少なくとも建築基準法令が定める仕様規定としての構造安全基準(壁量や偏心率)は満たしており、さらに耐震等級2の設計として25%の安全率があるはずなのです。
 この建物が耐震等級2の仕様を満たしているのに倒壊したのであれば、現在の耐震設計基準自体、目標とする耐震性能にとって不十分ということになり、上層階と下層階の壁位置の関係などを新たな耐震設計基準項目に追加する必要がありそうです。
 もっとも、本当は設計に重大な欠陥があって現在の耐震基準すら満たしていないという可能性もなくはなく、また、地盤に由来する問題の可能性もあるということで、所有者の方は、現在、第三者機関に調査を依頼しているということでした。その結果を踏まえて必要があれば、詳細調査実施の検討も兼ねて、再度ふくおかネットにご相談いただくことにしました。

 その後、もう1チームの調査現場に合流しました。こちらの建物は、応急危険度判定「赤」でしたが、近筋交座屈隣建物はほぼ「青」になっていました。
 建物内部では、1階内壁の下地材(プラスターボード)が落ち、筋交いの破断が確認できる箇所がいくつかありました。多数の筋交いが圧縮された形で破断していることで、1階が大きく変形している状況です。筋交いに人為的な欠き込みがなされていたような形跡はないのですが、可能性としては、壁量不足のために、一部耐力壁に地震の荷重が集中してしまったということもあるかもしれません。
 また、設計図書の指定と柱位置が違っていたり、プラスターボードが剥がれた箇所から所定の箇所にホールダウン金物が入っていないことなどが確認できましたが、これだけでは建物の損壊状況との因果関係が不明なので、設計図書を準備していただいたうえで、建物全体の破壊調査まで実施するかどうかご検討いただくことになりました。

 こうして益城町の建物調査を終え、熊本市内に向かいました。(続く)

(※付記)
 後日、この問題がNHKスペシャルや、池上彰さんの番組で取り上げられているのを見ました。上層階と下層階の壁や柱位置の一致率(直下率)が低いと、耐震性に問題を生じるとのことです。
 池上さんの番組では、直下率の高い建物、低い建物のモデルを置いた机が揺らされ、後者のモデルが簡単に倒壊したのを見て、あっと思いました。

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