前回に引き続き事例報告です。今回は事案の内容ではなく、紛争解決手段についての所感をお話ししたいと思います。
紛争解決手段のページでもご紹介した通り、「保険付住宅」や「性能表示住宅」に関する紛争(住宅紛争)の場合、裁判外の紛争処理手続を利用することができます。この紛争処理を行うのは住宅紛争審査会という機関で(各地の弁護士会が指定されています)、住宅の欠陥に関する紛争だけでなく、工事請負・売買契約の内容(工期、代金等)に関する紛争も扱ってもらえます。詳しくは、公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理センターのHPをご覧ください。
紛争処理の手続きには、あっせん、調停、仲裁の3つがあります。ごく大雑把に分類すると、あっせん・調停は話し合いに基づく当事者間の合意によって、仲裁は仲裁委員の仲裁判断によって紛争を終わらせる制度です。あっせん・調停では当事者間に合意が成立しなければそれまでですが、仲裁手続では、和解の見込みがない場合、最終的に仲裁判断が示されて強制的に紛争の幕引きがなされます(仲裁判断は、裁判の判決と同じ効力があります)。
仲裁の申請をするには、当事者間が予め「仲裁合意」をしている必要があります。仲裁合意書は、保険付住宅や性能表示住宅の売買契約書、工事請負契約書の末尾に添付されていることが多く、工事注文者、住宅購入者の方は特に意識していなくても、施工者や売主に求められるまま署名捺印をしている(仲裁合意が成立している)ことがありますので、必要に応じて契約書類を確認してみるとよいでしょう。
なお、住宅紛争処理は、消費者(住宅新築工事注文者、新築住宅購入者)、業者(工事請負人、新築住宅売主)のいずれからも申請することができますが、業者から仲裁申請がなされた場合、消費者は仲裁合意を解除して審査会での仲裁手続を拒絶することができます。一方、消費者からの仲裁申請について業者が仲裁合意を解除することは認められていませんので、予め仲裁合意をしておくというのは、消費者にとってはリスクなしに紛争解決手段の選択肢を増やせるという点で良いかと思います。
制度上、仲裁手続の流れは、通常の裁判とほとんど変わりません。期日は概ね月に1回開かれ、主張書面・書証の提出、現地確認、争点整理、当事者・証人尋問等が行われます。裁判と大きく異なるのは、仲裁判断の内容に不服があっても、上訴して争うことができないという点です(ご存知の通り、裁判は、一審、控訴審、上告審という三審制になっています)。また、改めて裁判に持ち込むということもできません。
前置きがすっかり長くなりましたが、私が申請人代理人をしている仲裁事件の話に移りたいと思います。依頼者の方は新築住宅の注文主ですが、完成建物や外構の欠陥について施工業者との交渉がうまくいかず、私が事件をお引き受けすることになりました
建築士さんに調査に入ってもらい、代理人交渉になった後も、当事者の言い分が真っ向から対立して進展がなさそうでした。そこで、裁判の準備を進めましょうということになったのですが、依頼者の方は、とにかく早く解決したいのに裁判は時間がかかるのではないか、控訴されたりしたらさらに解決が先延ばしになるのではないかと心配されていました。確かに、建築訴訟は比較的時間のかかる訴訟類型です。
そこで、工事請負契約書をよく確認してみたところ、当事者が署名捺印している仲裁合意書が見つかりました(問題の建物は、保険付き住宅かつ性能表示住宅でした)。依頼者の方に、裁判に似た制度として住宅紛争審査会の仲裁手続を利用できること、相手方から上訴されないので解決までの期間を裁判よりも短くできる可能性があること、ただし、上訴できないのはこちらにとって不利益にもなりうることなどをご説明したところ、とにかく早期解決を目指したいということで、この仲裁手続を選択することとなりました。私にとっては、住宅紛争処理の申請人代理人デビューです。
長くなってしまったので、仲裁申請後の顛末については次の記事にまとめたい思います。
(続く)