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掲載日: その他

タイトル事例紹介(2)◆住宅紛争処理手続ー仲裁編②ー◆

 仲裁申請後、良くも悪くも裁判との違いを感じることが多かったのは意外な発見でした。以下、思いつくままに挙げてみます。

 まず、時間的な面では、仲裁手続を進めるうえで意外にタイムロスが多いということです。申請をしてみて初めて知ったのですが、まず仲裁委員3名の選出について当事者の意思確認があります。具体的には、審査会から紛争処理委員の名簿登録者が両当事者(代理人)に示され、そこから、こちらが仲裁委員として希望する登録者、外してほしい登録者を審査会に通知します(なお、紛争処理委員の名簿には弁護士、建築士が登録されていますが、仲裁委員3名のうち最低1名は弁護士を選任する必要があります)。
 両当事者が審査会に通知した仲裁委員選出に関する希望は、相手方にも開示されます(・・その結果、一方当事者が推す名簿登録者は基本的に相手方に反対されるという事態に陥ってしまうので、名簿登録者に「これぞ」という人がいた場合には、あえてその方の名前を挙げないというのが戦略的には正しいかもしれないと学習しました)。
 その後、両当事者が異議を述べなかった名簿登録者の弁護士・建築士に審査会が仲裁委員就任の打診をし、仲裁委員が選任されてから当事者と期日調整をし・・という段取りを経て、仲裁申請から第1回期日が開かれるまで実に3ヶ月以上かかりました。
 通常の裁判では、裁判所に訴状を提出してから第1回期日まではせいぜい4~5週間というところですから、手続に入るまでの期間は仲裁の方がずっと長かったということになります。さらに、住宅紛争処理委員の任期の問題で、仲裁手続の途中で新たな仲裁委員選任の必要が生じ、その都度期日が2ヶ月以上空いてしまいます。

 こういうタイムロスは、審査会を利用する仲裁(というより住宅紛争処理全般?)特有のものでしょうが、反面、仲裁委員の選出に関して意見を述べられるというのは、裁判にはないメリットともいえるかもしれません(裁判でも、担当裁判官を選ぶことができればどんなにいいか・・)。
 ただ、当事者本人はもちろんのこと、代理人弁護士であっても、住宅紛争処理委員の名簿登載者全員について能力や人となりを把握しているわけではありません(特に、建築士の登録者はほとんどが知らない方です)。また、上記のように、こちらがいいと思う人は相手方に反対されてしまったりするので、完全にベストな選択をするというのは難しいものです。

  期日の入る間隔はだいたい月に1回で、この点は裁判と同じです。ただ、手続を主催する仲裁委員が、予定のバラバラな個々の弁護士、建築士ということで、裁判よりも期日の日程調整が難航する印象はあります。
・・仲裁手続の内容面に関する所感も色々ありますが、まだ係属中の事件でもあるのでここは控えておきたいと思います。

  仲裁手続の1つのメリットとして、(住宅紛争処理手続全般に共通かと思いますが)仲裁委員がフットワーク軽く、手続の比較的早い段階で現地を見に来てくれるということがあります。手続・判断の主体が現場を見に来てくれるということは、もちろん仲裁判断のためにも重要でしょうが、当事者(特に申請人)の精神的な満足という点でも大いに意味があると感じます。
 もっとも、建築がらみの裁判でも、裁判官が割とすぐに現地を見にくるという展開が近年多くなったように思います。

  仲裁手続が裁判に比べて圧倒的に使い勝手が良いと感じたのは、費用の点です。裁判では、請求額が1千万円なら印紙代5万円、2千万円だと印紙代8万円というように請求額に応じた金額の印紙を裁判所に納める必要がありますが、住宅紛争処理手続は、請求額がいくらであろうと1万円の手数料納付で申請できます。

 また、裁判手続の中で鑑定を行うことになった場合、その費用は必ず当事者負担となりますが、住宅紛争処理手続では、専門家による鑑定や現地調査費用は、原則として当事者が負担しなくてもよいということになっています。
 私が担当している事件でも、前回期日で、建物の外壁一面を解体したうえで下地材の施工状況を確認するという調査が行われたのですが、足場施工・外壁(サイディング)解体・原状復旧として数十万円の見積が上がっていました。これを申請人が立て替える必要もなく、解体工事をした工務店から審査会に直接請求書を送る→支払がされるという流れで、申請人にとっては本当にありがたい運用でした。
(蛇足ですが、この調査で久々に足場に上って踏み板にゴンゴン頭をぶつけ、ヘルメットのありがたさが身に沁みました)

外壁解体(掲載用)① 外壁解体(掲載用)②   外壁解体(掲載用)③

 紛争解決までの時間短縮ということで選択した仲裁手続でしたが、今のところ時間的なメリットは全然感じていません。しかし、上記の通り使い勝手に優れた別の面もあるので、事案に応じてうまく裁判と使い分けていくのがよいかなと思っています。

 なお、この記事でのご報告は、福岡県弁護士会住宅紛争審査会に係属中の、とある仲裁事件に関するものですので、審査会や事案の性質によって運用が異なることもあるかもしれません。念のため。

(付記)
 このコラムを書いた後、公益財団法人住宅リフォーム・紛争処理支援センターの消費者支援課課長さんとお会いする機会がありました。
 お聞きしたところでは、住宅紛争処理制度のうち圧倒的に利用が多いのは調停で、制度発足以来、仲裁の申請受付件数はわずか8件だとか。確かに、支援センターの統計によると、2014年時点で申請受付件数の累計は、あっせん27件、調停751件、仲裁8件となっています。へぇー。

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