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掲載日: 建物・建築

タイトル事例紹介(1)◆基礎杭沈下事件◆

 このコラムの更新もすっかり滞り、年をまたいでしまいました;;久々に更新すべく、最近終了した事件と、進行中の事件についてご紹介したいと思います。

 最近終了したのは、建物の基礎杭沈下事件です。この建物は小規模工場で、用途の関係上、高度な床の水平精度が求められていました。設計段階で行われた地盤調査の結果、計画地の浅層地盤は超軟弱~軟弱であることがわかり、強固な支持層は地盤面(GL)から約10m深い位置に確認されたことから、基礎構造は杭基礎が採用されました。

 竣工前の時点で、建物土間スラブと壁の間には隙間が生じており、引渡後には、窓枠や建具の建て付けが悪く何度調整しても再発を繰り返す、スラブが大きくひび割れるといった不具合が発生しました。
 以後、建築主は実に約10年にわたって施工会社に対応を求め続け、建築主、施工会社それぞれによって、床レベル測定や敷地の地盤調査が何度も行われています。床レベル測定の都度、傾斜レベルの値はどんどん大きくなり、最終測定時点では1000分の15以上という異常な数値に達していました。途中で、施工会社は建具の開閉不良は外壁とスラブの沈下が原因だという報告を行っているのですが、その対策について建築主と合意に至らず、建物引渡から10数年が経った後に裁判に発展しました。

 建物の設計段階では、計画地の1箇所(計画建物の中央部分)しか地盤調査が行われていません。その調査では、上記の通りGL-約10mの位置に支持層が確認されたことから、建物外周部の全杭打ち箇所について長さ10mの既成杭が用意され、建物北側はGL-8m強、南側はGL-10m強まで基礎杭が打ち込まれています。
 ところが、竣工から裁判の第一審終結までに行われた複数回・複数地点(杭打ち地点に近い合計約11箇所)の地盤調査結果を総合すると、支持層が北から南に向かって下がっており、建物北側部分の支持層深度はGL-約8m、南側部分はGL-約12mであることが判明しました。つまり、建物南側部分では長さ10mの基礎杭が支持層に到達していないために、建物が不同沈下を起こしていたのです。

 裁判では、基礎杭の支持層到達の有無(不同沈下の原因)をはじめ、設計者・施工会社及び代表者の責任、建築主の損害等について、細かいものも含めると非常に多くの問題が争点となりました。
 私は、この裁判に原告(建築主)代理人として第一審の途中から関わることとなったのですが、実は苦い思いをしています。第一審判決はなんと、「(建物の建築後に)複数回行われた地盤調査は、杭打ち工事と実施の時期が違う」「地盤調査地点も杭打ち地点とは違う」「杭打ち工事の施工者と、地盤調査の実施者も違う」として、「杭打ち地点と地盤調査地点とでは、地層構成や支持層深度がどのくらい違うかわからないから、建物不同沈下の原因は不明」だといって、こちらの請求を棄却したのです。
 こんな判決を書く裁判官がいるのかと、まさかの敗訴判決に本当に仰天しました(なお、上記のような認定内容は、被告でさえ主張していませんでした)。ちなみに、沈下を起こしている建物南側杭に最も近づけて地盤調査(ボーリング調査)を行ったのは、杭から北に約25㎝、南に約1.5mの地点です(それ以上杭に近づけてボーリング調査を行うのは、建物付属設備の関係で不可能でした)。この判決によれば、杭打ち工事の直前に遡って、杭打ち地点そのものの地盤調査を行わない限り、その地点の地盤構成は証明できないということでしょうか。そうは言ってもタイムマシンとか持ってないです。さらに、この判決では、争点の整理すら正しく行われていませんでした。

 もちろん控訴し、「地層は何万~何十万年もかけて形成されるもので、数年単位で構成が変わったり支持層が下がったりはしない」「複数箇所の地盤調査結果を総合して支持層深度の変化を推定することができなければ、杭打ちの全箇所について地盤調査をしなければ杭の設計もできないことになる(建築実務はそんなふうになっていない)」というごく当たり前のことも含め、第一審判決がどれだけおかしいかということを細かく主張しました。文献も探せるだけ書証として提出しましたが、当たり前すぎることを立証するというのはなかなかに難しいものでした。
 控訴審でも一悶着も二悶着もありましたが、約1年間の審理のすえ、請求額の8割以上の金額の支払を受けることとして、設計者・施工会社及び代表者との和解が成立しました。
 本当は遅延損害金だけでも莫大になっていることを考えると複雑ではありますが、回収の問題などもあるので和解を選択しました(一応、勝訴的和解といって良いかと思います)。しかし、建物引渡から問題の解決まで20年近い年月を要したことを思うと、依頼者(建築主)の方が大変気の毒な事案でした。

 この事件の教訓として、裁判所を過信せずに自分で争点整理をきっちりやろうと決意しました。なお、基礎杭の設計・施工に関しては、けっこうな期間、諸々の文献や協力建築士さんのレクチャー等でかなり踏み込んで勉強したので、弁護士としては相当詳しい方だろうと勝手に自負しています。

 基礎杭沈下といえば、先日、横浜市都筑区のマンション傾斜問題について、管理組合総会で全棟建て替えが承認されたという報道がありました。
 このマンションの場合はデベロッパーが責任を認めているので、私が担当した事案のように関係者の法的責任追及に時間を要しているわけではありません。が、マンションの建て替えとなると解体・再築の工期自体が長く、全住民の代替住居の確保→転居にも相当時間がかかるでしょうから、住民の方が元の生活に戻れるのはどうしても数年後になります(報道によれば、再入居の目処は平成32年とのこと)。
 近年、瑕疵の発覚によるマンション建て替えが相次いでいますが、基礎を含め、建物の目に見えない部分に瑕疵を生み出した場合には本当に大変なことになるということを、住宅供給業者には今一度認識していただきたいものです。

 続いて、進行中事件のご報告に移ろうと思いつつ力尽きてしまったので、後日の記事にすることとします。

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