以前ご紹介した擁壁再築費用請求事件の後日談です。建築士さんのご尽力により、ついに擁壁再築工事の計画が固まって先月末に着工しました。
現状の擁壁撤去と再築にあたって建物の敷地地盤を大量に掘削するので、擁壁際の建物が沈下しないように、まずは建物の基礎を鋼管杭で支えるためのアンダーピニング(鋼管杭圧入)工事を行います。先日、その様子を見学させていただきました。
アンダーピニングとは、油圧ジャッキを使用し、建物の荷重を反力として小口径鋼管杭を地中に打ち込む(正確には「圧入」する)工法です。
具体的には、建物基礎梁と鋼管杭の間に油圧ジャッキをセットし、シリンダからピストンを押し出すことで、建物荷重を利用して鋼管杭を地中に打ち込みます。長さ500~600mmの鋼管杭を継ぎ足して打ち込んでいき、所定の支持力が得られたところで打ち止めとなります。
アンダーピニングは、不同沈下を起こした建物の沈下補正に採用される代表的な工法です。
私も、不同沈下建物の原状回復手法として裁判で取り上げたことは何度かありますが、実際の工事を見るのは初めての経験です。
工事箇所は、作業スペースのために大きく掘削されています。建物外周部しか杭を打たない箇所は数十㎝四方・深さ1m程度の単独の穴(?)ですが、建物外周から内側にかけて複数の杭を打つ箇所はトンネル状の穴になっています。
地中に打ち込む鋼管です。先端の切断面は開先加工(溶接部材に角度をつける加工)されており、後端はフラットな切断面になっています。
鋼管は、先端を下にして地中に打ち込みます。
使用する油圧ジャッキは、ピストン全長15㎝の製品でした。
1本目の鋼管が地中に打ち込まれた状態↓から、後続の鋼管を圧入していく過程を見学しました。
鋼管の継ぎ足しは溶接で行います。
まず、地中に打ち込まれた鋼管の後端内側に、裏当て材の短小鋼管をセットして溶接で固定します。
裏当て材を固定した鋼管杭後端部に、接続する鋼管を設置して垂直精度を確認します。
地中の鋼管と、継ぎ足した鋼管の接続部を溶接します。
接続した鋼管の後端に鋼板を置いて油圧ジャッキをセットし、シリンダからピストンを押し出します。
ピストン先端が建物基礎スラブ底面に突き当たった時点から、建物荷重を反力として鋼管が地中に打ち込まれていきます。
ピストン全長を押し出した段階で、鋼管後端にスペーサーを設置します。
スペーサーの上に油圧ジャッキ(ピストンをシリンダーに収納した状態)をセットし、またピストンを押し出していきます。
油圧ジャッキのピストンを押し出して鋼管を地中に圧入→ピストンの全長を押し出した段階で、鋼管を圧入してできた隙間にスペーサーを設置→スペーサーの上に油圧ジャッキをセットしてピストンを押し出す・・という工程を繰り返します。
スペーサーは短小鋼管の両端に鋼板を溶接したものですが、工程途中からは、短小鋼管と鋼板を交互に積み重ねて即席のスペーサーとされていました。
最下部の鋼管先端が想定した支持層に達すると、ジャッキのピストンに接している建物基礎が少し浮き上がるような感じになります。
そこで杭の打ち止めとなります。最上部の鋼管と建物基礎の間には、ジャッキベースという部材を施工します。
ジャッキベースの天板と底版をつなぐ4本の支柱は、ネジで伸縮する構造になっています。
ジャッキベースの底板に油圧ジャッキをセットし、ピストンでジャッキベースの天板を押し上げて、ジャッキベースの天板と建物基礎スラブの底面とを密着させます。
その後、ネジのナットを締めて支柱の長さを固定します。
最後に、最上部の鋼管後端とジャッキベース底面を溶接して固定します。
ジャッキベースの支柱は上記の通り伸縮式になっているので、万一、将来建物が沈下したとしても、ジャッキベースの支柱長さを調整する(いったんナットを緩め、ジャッキベースの天板を適切な高さまでジャッキアップしたのち、支柱長さを再固定する)ことによって、ある程度は対処できるそうです。
私が見学した日の工程は鋼管圧入のみでしたが、後日、掘削土の埋め戻しと掘削箇所へのセメントミルク注入が行われています。
なお、私が見学したのは建物外周部の鋼管杭圧入ですが、アンダーピニング工事では、建物中央部にも鋼管杭を施工するのが通常です。(冒頭で触れたとおり、この建物でも建物中央付近の鋼管杭打設箇所がありました)
外周部でない杭打ち箇所は、そこまでトンネルを掘って作業スペースを確保しなくてはならないし、頭上に建物基礎スラブがある状態で作業しなければならないので、ものすごく大変そうです。
今回も、めったに見られることのない工事を見せていただき、とても貴重な経験となりました。