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コラム/近況報告
掲載日: 建物・建築

タイトルビル大規模改修プロジェクト(2)

 いつの間にか、計画から1年以上経っていたビル大規模改修プロジェクトの続き話です。
 現在、躯体コンクリートの補修工事が始まってしばらく経つところです。先月末、建築士が現地の見学に集まりました。

 まずは屋上から。渡り廊下腰壁のスチール手摺根入れ部が錆びており、劣化調査のために周囲のコンクリートが斫り出されています。
 手摺の錆び最深部まで躯体を斫り出し、亜硝酸リチウム入りのモルタルで埋めるそうです。

 パラペットの笠木は、内部(フラットバー溶接)の錆によって継手部が盛り上がり、思い切りシーリングが切れています。

 テストハンマーで少し叩いた程度で、内部のシーリングも、錆びた溶接部も簡単に剥がれ落ちてきました。
 このまま新規のシールを打っても、錆が進行するとまた切れてしまうため、笠木自体を再設置する必要があります。近年の新築物件であれば、笠木にはアルミやガルバリウム鋼板を使うでしょうが、この笠木は(渡り廊下手摺と同じく)スチール製で、メートル当たりの重量が10㎏もあります。そのため、撤去も容易ではない(ある程度程度細切れにする)必要があるとのことです。

 現況の屋根はコロニアル葺きです。寿命は30年程度(建物は築40年超)なので撤去葺き替えが望ましいのですが、アスベスト入りで撤去費用がかさむため、屋根の更新としては上からシングル葺きを被せる予定です(上記の通り、取り合いのパラペットの笠木をどう処理するかが問題)。

 屋根周りの樋です。樋底の上に鋼板を敷いて勾配を取り、アスファルトルーフィングで防水しているようですが、部材が劣化して、全般的に勾配不良(水平に近い状態)となっています。
 加えて、排水口周りはルーフィングが盛り上がっているなど、いかにも排水が良くなさそうです。

 樋の端部(ひどく錆びていた部分)は、今回の大規模修繕ですでに交換されていますが、底面に水が溜まり、取り合いの樋ルーフィング下部にも浸入していました。
 樋防水層の劣化状況からすると、早期に更新しなければ樋自体の底面が錆び、あちこちに穴が開きそうです。ルーフィング全体のやり替えは確定ですが、鋼板まで全て更新するかは劣化状況を確認してからの判断だということです。
 建物の樋長は60m近くあり、全部材を更新するとかなりの費用になるようです。

 コンクリート躯体の補修状況です。ひび割れで幅3mm以上のものは、現時点で防水材(ダッシュフレックス)が塗られています。
 ヘアークラックは、今後実施する塗装段階の下地処理で処置するようです。

 ジャンカがひどい部分は、すでにモルタルで補修しています。

 この建物は、新築時のコンクリート打設がよろしくないこともあり、劣化箇所が相当広範囲に及んでいます。費用面を考えると、補修対象とする不具合レベルをどう線引きするかが難しいところです。

 躯体補修の仕上選定のため、屋上の壁面で試験施工が行われています。
 オーナーの方は、できるだけコンクリート打ち放しの質感を残したい意向ですが、単に(打ち放し風)塗装のみで仕上げる場合、躯体表面の気泡が残るため、コンクリートの中性化が進みやすくなります。モルタルしごき塗り(+打ち放し塗装仕上)にすると、中性化深度が鉄筋まで到達するのを5年は遅らせることができるそうです。

 躯体補修範囲+方法選定、仕上選定の参考とするため、屋内の壁面2箇所で、アルカリ性付与材の試験塗布が行われていました。
 No.1箇所は1回塗り、No.2箇所は2回塗りとして、1週間後に両箇所の表面コア抜きをしたそうですが、どちらのコア底面にもアルカリ反応はなかったそうです。 
 塗布材が躯体表面付近に留まらない(奥の方まで浸透してしまう)ほど、コンクリート中性化が進み過ぎているということなのでしょうか。

 シーリング打ち替え済みの箇所は、引張試験の痕跡があります。

 建物全体で、壁や垂直部材の躯体劣化が非常に目立つ一方、スラブ天井面は新築時のクリアー塗装が生きており、かなり綺麗な状態です。

 現場事務所となっているフロアで、コンクリートの打ち放し風塗装に使うローラーを見せていただきました。現場で、ローラー表面を手でちぎって凹凸を作るのだと聞いて驚きです。

 建物内外の見分を一通り終え、改めて、「新築時のコンクリート打設品質がもう少し良かったら、こんなに修繕計画が難しいことはなかったですよね」「しかし、コンクリート打ち放しが綺麗に仕上がっている例ってあまり見ないですね(打ち放しに見えても、至近距離で見るとがっつり塗装)」などと施工会社の方にお話しすると、「高性能のAE減水剤を使えば、打ち放しでもかなり綺麗に仕上がりますよ。高いですけど。」とのご説明をいただきました。へぇ、AE減水剤って色々グレードがあるものなんですか。
 「そこまで材料コストを掛けずに綺麗に仕上げようと思ったら、型枠を叩きまくるしかないんですかね。人力で丁寧にやるとそれもコスト嵩みそうですけど、バイブレーター取り付けるのとどちらがいいんですか?」とお訊きしたところ、「型枠バイブレーターの方が圧倒的に効率は良いが、下手に使うと型枠がバラけて大変なことになる」んだそうです。うーむやはり、綺麗な打ち放しというものは、そうお安く簡単には実現しないということですか。

 なかなかに修繕計画の全容決定が難しい建物ですが、今後、建物の予定存続期間やコストを踏まえて諸々決めていくことになります。建築士試験科目の中で「構造」に次いで「施工」が好きな私としては、興味津々です。
 「法規」が一番キライ。職業を間違えている説も否定できないものの、建築基準法や消防法は、施行令・規則含めて、なぜあんなにわかりにくく作ってあるのか。日本語ヘタかー。

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