今まで扱ってきた建築紛争で、圧倒的に多かった建物構造形式はやはり木造です。そのほとんどの外壁は乾式仕上で、うち9割以上がサイディング張りでした。使用されているサイディング材は、窯業系8割:金属板2割という体感です。
個人的には、意匠としては湿式外壁が好きです。自分が富豪で家を建てるならば、外壁は柱の現し調で、漆喰か○ョリパッド仕上にしたいです。
乾式外壁の標準施工として通気構法が指定されていることは以前も書いたところですが、これまでに、その違反を取り上げる事件を多く扱ってきました。
そろそろ、あらゆる施工不良パターンを経験したような気もするところで、このあたりでいったん整理してみようかと思います。
◆通気構法の仕組み
改めてですが、外壁通気構法とは、外装材と断熱層の間に隙間(通気層)を設ける外壁の構法です(なお、屋根にも通気構法があり、通気層の設け方は外壁よりもバラエティがあります)。
外装材裏面に浸入する雨水や、室内から壁体に侵入する湿気を通気層経由で外部に排出し、内部結露や雨漏りを抑制するのが主な狙いです。
通気層が外部に湿気を排出するには、その名の通り「通気」が生じている必要があります。
下部に吸気口(兼・雨水排出口)、上部に排気口を設けて、通気層内部は通気を阻害しない施工としなくてはなりません。
■日本窯業外装材協会「窯業系サイディングと標準施工 第2版」17頁
乾式の外壁仕上材を使っているのに、全体的に通気構法を採用していない(躯体軸組に外装材を直張りしている)という新築物件はさすがに長らく見ていませんが、通気層が有効な通気を生じる施工になっていないというのは、かなりのあるあるです。
◆吸気口未施工・高さ不足
通気層の吸気口となるのは、外装材と下部水切りの隙間です。
有効な吸気確保のため、この隙間は10~15㎜程度必要だとされています。
吸気口施工不良のよくあるパターンが下記(1)(2)、さすがに1回しか見たことない!というのが(3)です。
(1)吸気口の高さ(外装材下端と水切りの離隔)が不足~ほぼゼロ(両材が密着)
*土台部
*オーバーハング部
なお、外装材と水切りの離隔が10~15㎜程度必要とされるのは、上記の通り吸気口としての機能(有効な吸気)確保のためです。雨水排出口として機能させるだけなら、高さがもう少し小さくても問題ありません。
が、外装材と水切りの離隔が小さすぎる場合(3㎜未満程度?)、雨水が外装材下端に滞留する、毛細管現象によって通気層側に逆流するなど、雨水排出口としての不都合も生じてきます。外装材表面部では水切りと数㎜程度の離隔が取れているように見えても、水切り勾配が大きい場合、外装材裏面部では水切りとの離隔がほぼゼロということもありえます。
(2)垂れ壁・オーバーハング外壁の下端に水切りや通気材を設けず閉塞している
(3)外装材下端・水切りもろとも地中に埋めている・・・
当然、水切りから基礎内部(床下)に雨漏りしていました。
この物件、「土台や柱自体の地中埋め込み+軸組的には外壁の下部である箇所に数十㎝高のモルタル塗り(一見、基礎立ち上がりに見える)+その上部(軸組的には外壁の中間部)に土台水切り設置・サイディング張り」という信じられない施工になっている箇所もあり・・さすがに、こんな事例にはもう遭遇しないと思われます。
◆排気口未施工
*軒換気も棟換気もない
通気層の排気口は、屋根の軒部か棟部に設けます。
■ニチハ㈱「設計施工資料編2023モエン標準施工編」19頁
・・が、棟換気仕様ではない建物で、軒部の換気も取られていないことがあります。軒天の軒先側にも、外壁との取り合い側にも通気見切材が設置されておらず、軒天材自体も換気機能のない無孔板が使用されているというケースです。
軒ゼロ屋根と外壁の取り合いに、通気見切り材が未設置(シーリングで塞いでいる)という例もよく見られます。
*パラペット・手摺壁の排気口閉塞
パラペット立ち上がりやバルコニー手摺壁は、天端に取り付ける笠木内の両側もしくは片側に、外壁両面分の通気層排気口(隙間)を設ける必要があります。
■左図:住宅保証機構㈱「まもりすまい保険設計施工基準・同解説(2019年版)」49頁
■右図:㈱住宅あんしん保証「あんしん住宅瑕疵保険設計施工基準解説書 令和元年版」26頁
これに違反した施工パターンとして、笠木内部で通気層の上端を塞いでしまっている、笠木幅が小さすぎる(折り返し部分と外壁が密着してしまっている)などの例があります。
*通気層の上端閉塞+笠木両面折り返しと外壁の密着+笠木立下りの片面ビス留め
*笠木両面折り返しと外壁の密着+シーリング
◆通気層未施工(パラペット・手摺壁片面)
上記の通り、全般的に通気層を設けていない乾式外壁(新築物件)は見なくなりましたが、パラペットの屋根側や手摺壁内側はサイディング直張りとしているケースがあります。
写真↓の建物は、パラペット両側に通気層がとられている場合、外壁厚さは約165㎜(柱・梁幅105㎜+外壁両面サイディング厚15㎜×2+通気層厚15㎜×2)となります。しかし、実際の外壁厚さは約155㎜(笠木幅167㎜-笠木立下りと外壁の離隔5㎜-同7.5㎜)しかありません。パラペットの屋外側(1階土台部からサイディングが連続して張られている)には通気層があるものの、屋根側にはないためです。
◆通気層内の通気阻害
所定厚の通気層が設けられていても、通気が妨げられている施工パターンです。
*胴縁施工不良
外壁下地(外装材の留め付け先)に胴縁を使用する場合、外装材が横張りであれば縦胴縁、外装材が縦張りであれば横胴縁として施工します。胴縁の厚さ≒通気層の厚さですが、所定厚の胴縁を使っていても、設置を誤ると通気層の施工不良(下から上への通気阻害)となります。
縦胴縁・横胴縁とも、開口部周りで通気が遮断しないよう設置する(サッシ枠に突き付けてはいけない)のは共通ですが、横胴縁の場合、約1.8~2.0m間隔ごとに、通気箇所として30㎜程度の隙間を設ける(もしくは、材に欠き込みがある通気胴縁を使用する)という注意点があります。
■上図:住宅保証機構㈱「まもりすまい保険設計施工基準・同解説(2019年版)」59頁
■下図:㈱住宅あんしん保証「あんしん住宅瑕疵保険設計施工基準解説書 令和元年版」34頁
写真↓の建物は、設計図書では縦胴縁施工が指示されているのですが、実際には横胴縁が施工されています(外装材は縦張り仕様ですから、そもそも設計上の胴縁向きがおかしいのですが)。
胴縁材自体は通気仕様でなく、設置にあたって通気箇所の隙間も設けられていません。
*防水紙・断熱材施工不良
防水紙のたるみ・断熱材のせり出しによる通気層の閉塞にも要注意です。
■上図:日本窯業外装材協会「窯業系サイディングと標準施工 第4版」18頁
■下図:ニチハ㈱「設計施工資料編2023モエン標準施工編」22頁
写真の建物↓は、胴縁による押さえがない箇所で、壁内の充填断熱材が通気層側にせり出しており、サイディング裏面と防水紙が接触する状態になっています。
この建物に使われている断熱材は、防湿フィルムの耳部分を柱梁の見付面に留め付けて施工するタイプですが、屋内側から視認できる範囲に適切な施工箇所は全くなく、断熱材が壁内に相当押し込まれています。このような施工は、通気層を潰しているだけではなく、断熱層・防湿層自体の欠陥にもあたります。
次の写真の建物↓は、防水紙のたるみによって通気層がつぶれています。
この建物の外壁断熱は、壁内の充填断熱に外断熱を付加する方式で、防水紙の内側にあるのは、外断熱に使用した(固い)ボード状断熱材です。つまり、断熱材が通気層側へせり出しているわけではなく、防水紙だけがたわんでいるということです。
この防水紙(透湿防水シート)の施工マニュアルでは、防水紙を上下左右600~800㎜間隔でタッカー留めすることになっているのですが、防水紙の継ぎ目は部分的なガムテーム留め、全般的にタッカーによる留め付け箇所は全くなしというずさんな施工でした。
◆通気構法違反の外壁には何が起きるか?
外壁通気構法違反の施工は、(施工不良の程度によるところはありますが)当然に内部結露や雨漏りの原因となります。現実にそうした不具合が生じると、吸水・吸湿による断熱材の性能劣化、躯体の腐朽、カビ発生といった被害に発展していきます(※)。
(※)各種マニュアルなどで、内部「結露」が強調されているのは、僭越ながら若干不正確なのではないかという気がします。結露は、水蒸気が露点温度以下の物質に触れて凝結する(液体の水になる)現象ですが、結露が生じなくても、壁内に湿気が滞留する状況が継続すれば同様の被害が生じるはずです。
建物の内部被害だけではなく、外壁の一次防水層である外装材の劣化も促進してしまいます。
■㈱エクスナレッジ「建築知識2010年5月号」28頁
私も何度か、通気構法違反によって、外壁に明らかな異常が生じている住宅の調査に関わっています。
それらの物件はいずれも、通気層の排気口閉塞が原因だと考えられるサイディングの目立った変形が(とりわけ外壁上部に)見られました。
そのうち1軒は、柱や梁もかなり腐朽していたため、2階部分は軸組から撤去新設となっています。
◆外壁通気構法違反と瑕疵担保(契約不適合)責任の問題
いわゆる品確法により、新築住宅の構造耐力上主要な部分・雨水浸入を防止する部分の瑕疵について、工事請負人や売主は、引渡時から10年間の契約責任を負います。
外壁は雨水浸入を防止する部分であり、通気構法違反は雨水浸入に影響する瑕疵ですから(※)、その違反となる外壁の施工について、新築住宅取得者は、引渡時から10年間、住宅供給業者(請負人・売主)に対する瑕疵担保責任の追及が可能なはずです(瑕疵の程度が相当軽微な場合などは、訴訟で争われた場合にどういう結論になるのか不透明なところはありますが)。
(※)新築住宅供給業者は、上記瑕疵担保責任の履行確保のため、保証金の供託か保険加入の義務があります(ほとんど全ての業者が保険加入を選択しています)。その保険法人統一の設計施工基準では、乾式外壁は通気構法とするよう定められています。
問題は、通気構法違反に起因する上記のような不具合現象は、一般に、竣工から10年前後という非常に微妙な時期にならないと顕在化しにくいということです。
引渡から10年経過後に瑕疵が発覚した場合、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」にあたるとして、新築工事の施工者に対して不法行為責任を追及することはありえますが、住宅供給形式が売買の場合、売主に対して不法行為責任を追及しうるケースはそうとう稀だと思われます(瑕疵ある新築住宅の供給について、売主の故意過失を特定できるケースなど、そうないのではないでしょうか)。
ということで、品確法が定める瑕疵担保期間10年というのは短いです。実はその弊害は、雨水浸入防止部分よりも、構造耐力上主要な部分の瑕疵についての方が深刻といえるかもしれませんが(それなりに大きな地震でも起きない限り、構造耐力上の瑕疵による不具合など、気がつかないまま10年は過ぎてしまうと思われます)。
強行規定の瑕疵担保期間は、20年くらいが妥当ではないでしょうか。その間に施工会社も建売業者も倒産していることはありえますが、住宅所有者が保険金を直接請求できれば問題はないわけですし・・ブツブツ・・。