◆独自工法によるコンクリート施工不良
住宅メーカーの独自工法には要注意と以前も書いたところですが、その認識を新たにした鉄筋コンクリート(RC)造建物の欠陥事例をご紹介したいと思います。訴訟の概要はこちらです。
RCの標準工法は、鉄筋組立→型枠設置→コンクリート打設・養生→型枠解体(脱型)という手順ですが、本件建物は、スラブの型枠を天井下地、壁の室内側型枠を内装下地として残置する独自工法で施工されました。工務店は、低コスト・短工期を謳い文句としています。
躯体工事完了後、脱型している室外側の壁面には、コンクリートの打設不良箇所(ジャンカやコールドジョイント)が多数見られました。
工務店は、ジャンカ等の表層にだけモルタルを塗るという「なんちゃって補修」を施したうえ(※)、残置型枠を撤去して室内側のコンクリート仕上がりを調査してほしいという建築主の要請を拒絶しました。
(※)適切な補修としては、密実なコンクリートが露出するまで不具合箇所を斫ったうえ、コンクリートの再打設や樹脂モルタル充填などを行う必要があります。
工務店は、「室内側にジャンカはひとつもない」と言い切ったそうですが、私が建築主であれば、「躯体の片面(室外側)にだけジャンカを作るような高度技術あるんですか」と突っ込まずにいられません。そもそも、窓開口部の小口からは、壁の室内側にもジャンカが生じているのがはっきり確認できていました。
提訴前に実施した調査では、壁の室外側、室内側についてそれぞれ抜き取り調査箇所を設定し、室外側についてはモルタル補修材を斫ってみました。
深さ1㎝以上のジャンカ等が多く見つかり、内部が深い空洞となっている箇所もありました。
室内側の抜き取り調査箇所は、残置型枠を撤去しました。コンクリートの表面は、気泡やジャンカの表層らしきものがみられる箇所が多く、チッパーで表面を斫ってみると、立派なジャンカが現れました。
コンクリート打設にあたっては、生コンを型枠内にきっちり充填し、打ち継ぎ不良なども生じないようにするため、バイブレーターの適切な使用が必須です。
標準的なコンクリート工事でも、バイブレーターの使用が不適切だと、窓開口部、鉄筋や型枠工事部材(セパレーター、スペーサー)の下部などに打設不良が生じやすいのですが、本件建物の躯体コンクリートは、それ以外の箇所も打設不良だらけでした。バイブレーターのかけ方が極めて不十分だったと思われます。
それを裏付けるのが、残置型枠の数箇所に見られたせき板の破損です。せき板破損箇所は、裏面の防湿シートもろとも、コンクリートが室内側にはらみ出していました。
「残置型枠に使用されたせき板は標準工法の型枠せき板(コンパネ)ではなく、バイブレーター挿入時の生コン側圧に耐えられず破損したのだろう」「コンクリート打設の作業員は、せき板ができるだけ破損しないように、バイブレーターの使用を控えたのではないか」というのが、調査をお願いした建築士さんの見立てです。
なお、本件建物の断熱層は、残置型枠の枠材間に断熱材を充填して施工されているため、コンクリートのはらみ出し箇所は、断熱層の欠損や厚さ不足という欠陥を生んでいます。
残置型枠の裏面防湿シートは、コンクリートの水分でせき板が吸湿するのを防ぐために設置されたものです(標準工法では、コンクリート養生後に室内側型枠も撤去しますから、せき板に防湿シートを設置することはありません)。
そのシート端部がコンクリートに食い込み、躯体の断面欠損となっている箇所も見られました。
◆この工法最大の欠点
というように、本件建物の独自工法は、それ自体が施工不良を誘発するうえ、コンクリートの仕上がり状態について、室内側の検査を予定していないというのが最大の欠点だと思います。
コンクリートの仕上がりは、生コン品質、生コン出荷から打設までの時間、打ち継ぎの間隔、打設や養生の良し悪しなど、様々な要素に左右されます。標準工法であっても仕上がり検査は必須だというのに、施工不良が生じやすいうえに適切な検査もできない工法というのは、本当にいかがなものかと思います。
提訴後、被告工務店は、「(抜き取り箇所の調査しかしていない)室内側のコンクリート打設不良の範囲は立証されていない。立証責任を負っている原告が費用負担して残置型枠を撤去すべきだ」などと主張してきたのですが、検査ができない工法を採用しておいて何を言ってるんだという感じでした(そもそも、被告として、立証責任を負っている原告が適切な立証をしていないと確信しているのなら、放っておけばよい話)。
こういう工法にするのなら、通常のコンパネと同じく生コン側圧に耐えられる+室内部材として使用可能(シックハウス原因物質を放散しない)+防湿材と完全に一体化した専用せき板を開発する、生コンは高流動コンクリートにする、技術に信頼のおけるコンクリート工事業者と提携するくらいの品質確保努力をして、仕上がり検査なしのリスクを極力低減すべきではないかと思います(それでも、リスクがゼロにはなりませんが)。
・・・しかしその場合、工務店が売りとしている低コストなど実現できるのでしょうか。
ちなみに、訴訟の過程で、(被告工務店の費用負担により)残置型枠の壁せき板は全面撤去となりました。その結果、コンクリートの室内側もジャンカその他の打設不良箇所が多数、壁の外周にぐるりと連続しているコールドジョイントからは、屋内のあちこちに漏水していることが発覚したのでした。
施工の教科書に載っているような、見事すぎるコールドジョイント。。
◆そもそも、なぜ標準工法になっていないのか?
何の分野でも、技術革新に伴って新ビジネスが誕生するのは自然な流れですが、既存の技術や材料を用いて、完全に新規といえる事業を展開するのは容易ではありません。
新規性の高い商品やサービスのリリースにあたっては、すでに開発されていない・普及していない理由を検討すべしと言われていますが、人の暮らしに密着しており、研究開発が成熟している建築分野も例外ではないはずです。
本件でいえば、コンクリートの室内側型枠を内装下地として利用するというアイディア自体は、誰でも思いつきそうなことです。既存建材を使用して何のデメリットもなく施工できるのなら、確かに低コスト・短工期ですから、RC造建物(内装下地を木軸とする場合)の標準工法として、すでに定着していておかしくないのです。
というわけで、結論が頭出しとなっていますが、やはり独自工法には要注意ではないでしょうか。以前の記事でも書いた通り、消費者側で、その工法を採用するか否か、メリット・デメリットを踏まえた適切な判断をするのはなかなか難しいように思います(そもそも、施工者側は、デメリットなど説明しないでしょうし)。