今般、建築士業務として(といっても、勉強がてらのほぼ無償ですが)、築40年超ビルの大規模改修プロジェクトに関わらせていただくことになりました。
大まかな予定は、劣化診断→長期修繕計画→改修仕様検討→工事見積のための現場説明会→業者ヒアリングという流れで、過日、第1弾の劣化調査に参加してきました。
◆コンクリート劣化調査
対象物件は、コンクリート打ち放し+部分的にタイル仕上の鉄筋コンクリート(RC)造です。
新築以来一度も大規模改修をしていないそうですが、屋上防水は未だ健在で、漏水などは起きていないようです。これだけの築年数で、アスファルト防水の押さえコンクリートがかなり綺麗な状態なのは驚きでしたが、躯体コンクリートの方はかなり傷んでいます。
外壁タイルの浮きも打診棒で軽くチェックしましたが(それなりに浮きがありました)、今回のメイン調査は、コンクリート打ち放し部分の外観目視(躯体の亀裂・剥落等の確認)と、中性化深さ試験でした。
◇外観目視チェック
調査参加者全員で手分けして、躯体外観を目視チェックしました。
気になったのが、新築段階のコンクリート打設不良(ジャンカやコールドジョイント)があちこちに見られることです。コールドジョイントに沿って亀裂ができているのは経年劣化かもしれませんが、新築時の躯体工事品質が良くないというのは明らかでした。
コンクリート打ち放しなら、意匠的にもよろしくないコールドジョイントができないように、打ち継ぎ位置をちゃんと計画すべきだと思うのですが。
階段スラブの裏側は、配筋の位置に鉄筋の錆汁らしきものが浮き出ています。
場所的に、コンクリートかぶり厚測定や中性化深さ試験をするのは難しいのですが、かぶり厚が不足していて、鉄筋の位置まで中性化が進行しているのかもしれません。
スラブの裏側に、エフロが確認できる箇所もあります。ここは漏水が起きていそうです。
◇中性化深さ試験(下階)
RC造躯体は、コンクリートがアルカリ性を保っていることで内部の鉄筋が錆びから守られるのですが、時間が経つにつれ、コンクリートは表面から中性化していきます。
そこで、躯体劣化診断の一項目として、この中性化深度を調査します。結果が一目瞭然かつ精度が高いのは、コンクリートのコア供試体にフェノールフタレイン溶液を吹き付ける方法ですが(↓)、コア抜きによる躯体への影響やコスト面のデメリットがあります。
今回は、ドリル法による中性化深さの簡易試験を行いました。
私は初めて見たのですが、①躯体を電動ドリルで掘削し、フェノールフタレイン溶液を染み込ませた紙に粉塵を付着させる→②紙が変色した(躯体がアルカリ性の位置まで掘削された)段階で掘削を止める→③掘削孔の深さ(≒中性化深さ)をノギスのデプスバーで測定するという手法です(※1)
(※1)コア抜き試験よりも躯体への影響やコストを抑えられる一方、ドリルがセメントの硬化部分ではなく粗骨材を貫通する場合など、正確な中性化深度がわかりにくいという難点があるようです。
まず、検査箇所(柱)の鉄筋位置と深さを測定してから(※2)、鉄筋位置を避けて躯体を掘削します。
(※2)私が持っている安物の探査機(10年以上前に3万円くらいで購入したBOSCH製)では鉄筋の位置しかわかりませんが、今回の調査で建築士さんが持ってこられていた探査機(同じメーカーの上位機種)では、鉄筋の深さもばっちり測定できます。
この検査箇所の鉄筋位置(帯筋表面)の深度は70㎜程度でした。
粉塵が付いたフェノフタ紙(←独自の略語)が紫色に変わりました。
掘削深さ(≒中性化深さ)は30mm強でした。
新築時からの中性化進行速度を考えると、鉄筋の深さまでコンクリートが中性化するまでの時間的余裕はかなりありそうです。
◇中性化深さ試験(上階)
上階の柱検査箇所では、中性化深さは約11㎜でした。躯体の状態(コンクリート打設状況)は良くないのに、中性化の進みが遅いのは不思議なところです。
上記の柱から数メートル離れた位置の袖壁(厚150㎜)は柱より中性化が進んでいて、深度が24㎜強でした。
柱に比べてコンクリートが打設しにくく、生コンに水が足された(いわゆるシャブコンだった)のではないかというのが建築士さんの見立てです。
この袖壁の小口には、鉄筋の発錆(コンクリートの爆裂)を疑わせる大きめの亀裂があります。
しかし、コンクリート中性化が柱より進んでいるとはいえ、壁面・小口面のどちらからも鉄筋深さまでは到達していないことからすると、この亀裂の原因が爆裂だとは考えにくく、一体何なのだろうかという謎が残りました。
◆作戦会議
◇コンクリートの補修
改修計画立案の肝は、建物の現状を踏まえて、躯体をどう補修するかです。
建築士さん曰く、コンクリート打ち放しを維持するのであれば、表面のクリア塗装を剥離剤で撤去したうえでコンクリート改質材を施工する(躯体表面を緻密化する)べきだが、費用的には、打ち放しを諦めてしごき塗装にする方がはるかに安く上がる(ただし、寿命は15~20年程度)とのことでした。
建物オーナーの方は、意匠的には打ち放しを維持したいご意向でしたが、費用の兼ね合いから、道路から見える部分・見えない部分で改修方法を分けることも含めて検討されるということになりました。
◇アスベストの対処
古い建物の改修に必ずつきまとうのがアスベスト問題です。今回、建築士さんが着目されたのは駐車場の天井仕上で、「木毛セメント板はアスベスト入ってないけど、トムウェットって入ってそう。国交省のデータベースで調べてみて」とのご指示により、一同スマホをポチポチしたところどんぴしゃりでした。
アスベスト含有建材の除去、封じ込め・囲い込み(アスベストの飛散防止措置)のいずれにも市の補助金が受けられるのですが、封じ込めや囲い込みについて補助金を受けると、将来的に同じ箇所の建材を撤去するとなった場合に補助金を受けることはできないそうです。
この点を踏まえて、アスベスト含有建材施工箇所の改修方法についても検討することになりました。
◆当面の予定
今後、来月中旬までに長期修繕計画と改修仕様検討の打ち合わせを行い、月末までには工事見積の現場説明会を行う予定です。
今後もウォッチャーくらいの立ち位置だろうと自覚しつつ、せっかくの機会なので色々と吸収していきたいと思います。