◆控訴審の顛末
控訴審は、期日での裁判長発言や、期日間の求釈明・主任裁判官の発言などから、「誰も一審判決すらまともに読んでいないのでは?」と思わされる出だしで、苦慮しつつ対応したものの、どうにも事案を理解しているとは思われない裁判所に最後まで振り回される展開となりました。
「この裁判所大丈夫なのか」という印象が変わらないまま、第1回期日から約3ヶ月後に弁論終結し(実質3期日)、判決期日として指定されたのはその4ヶ月も先でした。予定の判決期日直前になって延期の要請もあり、ようやく手にした判決書の内容は、懸念の通りとても変でした。
控訴審判決が、FC本部の責任を認めた「基本的な安全性を損なう瑕疵」は、「セメント系耐力壁面材と防湿気密シートの不適合」のみでした。一審判決がFC本部の責任を認めたその他の瑕疵について、控訴審判決が責任を否定した理由は事実誤認や認定落ちだらけです(一審記録・判決をきちんと読んでいないだろうという当初からの懸念が現実化した感じ)。
損害額の認定でも、FC本部の責任を認めた上記瑕疵の補修費用について、他の瑕疵補修と重複する工事費用については損害から控除したり、他の一審被告の既払額1000万円以上(設計監理者の訴外和解金+一審で調停成立した被告工務店の分割払い解決金)を損害発生時(本件建物引渡時)の元金に充当したりなど、相当にめちゃくちゃな判断をしています。結論として、一審判決の認容額5000万円超に対して、控訴審認容額は約1500万円でした。
まぁひどい判決であり、少なくとも他の一審被告既払額の損害充当の問題については、民法の充当規定に反していることが明らかであると判断し、これは「判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反」だということで上告(受理申立)を検討しました・・が、依頼者の方と相談して諸々検討した結果、断念することとなりました。無念。
◆被告FC本部からの回収
一審被告工務店ほどではないものの、信用調査会社の情報によると、FC本部の財務状況も安泰ではなさそうなので、一審判決後、直ちに仮執行に着手していました。
メインバンクらしき銀行預金について差押と転付命令、FC本部自社サイト掲載の加盟工務店のめぼしそうなところについて継続的債権(ロイヤリティ)の差押をかけたところ、預金の方は空振りし、加盟工務店の数社からは、もうFC契約は切れていると言われたり、反対債権の存在を主張されたりしました。
控訴審の途中で、FC本部自社サイト掲載の全加盟工務店に対象を広げてロイヤリティの差押申立をしたのですが、掲載社の半数近くから、FC契約の不存在や、ロイヤリティが実質ゼロだという回答をされました(予想していたことですが、差押の途中で、FC契約を切った加盟店もありました)。
それでもロイヤリティの差押で最終的に1000万円以上を回収しましたが、事務作業は煩雑、加盟工務店の社長さんや担当者の対応も様々で(親切な方だったり、罵られたり・・お気持ちは理解します)、一言でいえば苦労した思い出です。
控訴審判決認容額に執行回収額を充当した残額数百万円(この計算については、こちらできっちり回収額を遅延損害金から充当してやりました)について、結局、FC本部は何かの保険金で支払をしてきました。保険金で支払えたのならば苦労して執行したのは何だったのかという気もしますが、保険限度額も不明なことですし、結果論と割り切るしかありません。
納得いかないどころではない控訴審判決でしたが、長期分割の一審被告工務店の解決金も今後焦げ付きなく最後まで支払われるのであれば(まだ先は長いのですが、現在のところ支払は滞っていません)、一審の全被告から総額で一審判決認容額くらい(建物建て替えが可能)を回収できることにはなるので、そうなるようにと祈るばかりです。
◆余談2
建築技術的な面では、断熱層を含む木造住宅の外壁構造について学びの多かった事件でしたが、訴訟というものについて再認識を余儀なくされたのは「裁判所の当たり外れはある」という厳しい現実でした。工場基礎杭沈下事件の一審裁判以来、本件の控訴審までは、そんなに変な判決をされたり、よろしくない裁判官に当たったりはしなかったので、久しぶりの被弾です。
裁判所の当たり外れによって結果が大きく左右されるという事件は、割合としてはそう多くないと思いますが、建築を含む専門訴訟(大都市の裁判所では専門部・集中部が取り扱う事件)、通常事件でも争点複雑なもの、世相に加えて裁判官個人の価値観が結果に強く反映されそうな訴訟(夫婦別姓やLGBT問題など)などはこれにあたるのでしょう。
そしてまた、代理人の力量によって結果が大きく変わる事件というものも相当数あるのだろうと自戒を込めて思います。僭越な意見ではありますが、弁護士数の増加に伴ってか、上記のような専門訴訟分野の事件を経験不足の弁護士が単独で受任し、依頼者にとっては二次被害になっているのではないかと感じることが時々あります。建築関連の訴訟がかなり進行した段階で、当事者の方からセカンドオピニオンを求められたり、受任弁護士の方から相談を受けたりして、これはまずいよなぁと思うことがままあるのです。どのような分野でも、事件処理のノウハウ本は豊富に出版されてはいますが、実務の趨勢把握や個別の事件処理にあたって押さえるべきポイント、必要な他業種人脈などは書籍では得られないものなので、弁護士としての経験年数の多寡によらず、未経験分野でそれなりの困難が見込まれる事件を単独で受任するのは危険だと思います(私についていえば、「九州・山口医療問題研究会」に所属してはいるものの、医療過誤事件を単独で十分適切に処理する自信はないので、私個人がご相談を受けたときは、経験豊富で信頼する弁護士の方に共同受任をお願いしています)。
話が逸れましたが、よろしくない裁判官にあたったり、あまりに変な判決をされたりすると、かなりメンタルをやられます(弁護士あるあるですが、依頼者の方にとってはもっと深刻です)。
私にとってはそれがこの仕事の一番嫌なところといって過言でないのですが、我が師匠・幸田雅弘弁護士が、別府マンション事件1次~3次控訴審で3度が3度とも不当判決をされ、上告審で2度、極めて先例的価値の高い最高裁判決(最判平成19年7月6日、最判平成23年7月21日)を勝ち取られたことを思うと、弱音を吐いてはいかんとも思います。
しかし個別の事件処理においては、弁護士として筋を通したいところと、依頼者にとっての利益・リスク衡量の結果とが必ずしも一致せず、諸事情考慮のうえ前者は断念という局面もままあり、モヤモヤ感が蓄積されるのがやはり相当のストレスです。よろしくない裁判所に事件が係属したときにどう善処すべきかは、当面の課題でもありますが永遠のテーマにもなりそうです。