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コラム/近況報告
掲載日: 建物・建築

タイトル事例紹介(5)◆フランチャイズ住宅の建築紛争④◆

◇調停・判決
 先述の裁判所求釈明の前に、被告工務店とは、請求額の5割強を解決金とする調停が成立しました(相手方資力の問題があり、苦渋の決断でしたが、解決金額も分割回数も大幅譲歩しました)。
 被告FC本部は和解・調停を拒み、判決となりました。争点に関する判断の概要と、思うところをつらつら書いてみます。
*FC本部の使用者責任:否定(想定の範囲内といいますか・・)
*FC本部の不法行為責任
 「住宅商品自体(の)法令上の瑕疵」や「商品仕様に密接に関連した施工方法等についてのフランチャイジーへの指導が不十分又は不適切」である結果、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵が発生し、それにより原告の生命,身体又は財産が侵害された場合には、原告に対する一般不法行為責任を負う」と判示しました。
 「商品自体の瑕疵」または「商品仕様に密接に関連した施工方法に関して生じた瑕疵」にあたるとされた主な瑕疵について、不法行為責任に関する認定は次のようなものでした。
**セメント系耐力壁面材と防湿気密シートの不適合:肯定
 被告FC本部が提出した報告書や意見書は証拠価値を否定され、「建物の構造強度自体に疑義が生じることになる」「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」だと認められました。
 そして、被告FC本部の担当者が、FC商品仕様の耐力壁面材が「あんしん」であることを前提に、その使用を示唆するメールを設計監理者に送信したことが「施工会社に対する不適切な指導」であると認定しました。
 ・・実はこの問題に関して、私はずっと疑問に思うところがありました。このセメント系面材に透湿性のない防水シートを使用してはいけないのなら、そもそも、面材の屋外側に断熱ボードを施工する外断熱工法との相性自体どうなのでしょうか。外張り用の断熱材(発泡プラスチック系)はほとんど透湿性がない(透湿抵抗が高い)ものです。断熱層の適正施工として断熱材継目に気密テープも貼るのなら、壁内の湿気が断熱層を経由して外壁通気層に抜けるということがないように思えます。根本的には、外壁通気層の目的である①屋外から外壁内に浸入する雨水(や湿気)の排出、②室内から壁内に侵入する湿気の排出のうち、後者については、外断熱工法の場合は成り立たないのではないかという疑問です。
 「あんしん」の施工要領が、透湿性のない防水シートの施工を禁じるのみで、外断熱工法との組み合わせは禁止しないというのは、壁内水平方向の湿気移動という点では筋が通らないように思うのですが、実際のところ、本件建物のように軸組材が未乾燥状態での仕上施工とか、軸組材自体がまさかのグリーン材だとかいう特殊事情がなければ、現実の不具合(面材の吸湿による強度低下)がそこまで懸念されることはないのかもしれません。逆に、そんな異常な軸組に面材が直接張られれば、防水紙に透湿性があったところで、面材の耐力低下は避けられない気もします。

**外壁通気胴縁未設置(防火構造違反)・通気層厚さ不足:否定
 
耐力壁面材として「あんしん」の使用を示唆する、被告FC本部から設計監理者に対するメールには、下地に樹脂セパレーターを使用する外壁構造について「防火認定番号はありませんので必要な場合は胴縁施工としなければならない場合があります」という記載がありました。
 実際、設計監理者は、外壁下地を胴縁(15mm厚)とする設計図書を作成しているのですが、被告工務店はその指示に反して被告FC本部供給の独自部材(5mm厚樹脂セパレーター)を使用したということになります。
 判決では、「このような設計図が作成されているにもかかわらず胴縁を施工しなかったのは、専ら本件施工会社の判断によるものというほかない」「被告(FC本部)の標準仕様において胴縁設置が求められていないことの相当性はさておき、少なくとも本件においては、本件建物の外壁に胴縁が設置されなかったことについ被告の行為との間に相当因果関係が認められないというべきであり、被告に不法行為が成立するとはいえない」とされました。
 確かにそうなるのだとは思いますが、部材(樹脂セパレーター)供給したのは被告FC本部ですから、標準仕様の是非(瑕疵性)について、できれば明示的に認定してほしかったところです。
 外壁防火規制との関係で、この樹脂セパレーター(同材使用の外壁について防火構造の大臣認定はない)を外壁下地として、合法的に建築できる事例はかなり少ないはずです。
 住宅が建設される市街化区域において、防火地域・準防火地域・法22条区域のいずれの制限もない土地は、全国的に見ても稀です。特に都市圏の市区町村では、防火地域・準防火地域以外の地域は、ほとんどが法22条区域に指定されています(本件建物所在地の市町村も、市街化区域のうち、防火地域・準防火地域の指定がない区域は、全域が法22条指定区域です)。
 被告FC本部は、樹脂セパレーターを下地とする外壁は「外壁防火に関する無指定地域を前提として開発した」などと主張していたのですが、外壁防火規制の実態からすれば、可燃性の樹脂セパレーターを使用する独自の外壁構造について、自らで防火構造認定を取得すべきでしょう。実際のところ、このFC仕様住宅で違法な外壁構造となっている事例はいくつもあるのではないかと想像します。
 通気層の厚さ不足という点では、先述の岐阜地判平成19年6月22日が、「契約図書の仕上表では、18㎜厚の胴縁によって通気層を設置する仕様となっているところ、現況では、外壁下地材として、厚さ5㎜の横胴縁が設置されているのみ」という外壁施工について、「有効な通気層が確保されていない」「欠陥ということができる」と認定しています。

**外張り断熱材継ぎ目の気密防水テープ未施工:肯定
 
当事者双方が実施した断熱材浸水実験を比較して、断熱材内部に浸水することはないという被告FC本部の主張を排斥しました。
 そして判決は、「この瑕疵は、被告が断熱材の継ぎ目に気密防水テープを貼る必要はないとの認識のもと・・加盟店向けのマニュアルにおいても気密防水テープの施工を指示していないことが一因となって生じたものといえるから、被告の住宅商品自体の瑕疵に由来するものといえ、このような瑕疵のある施工がされたことにつき被告に不法行為責任が成立するというべきである」としています。
 判決指摘の通り、被告FC本部の加盟店向けマニュアルに、断熱材の継ぎ目に気密防水テープを貼る旨の指示はありませんでした(継ぎ目の位置に樹脂セパレーターを貼るような図示がされていました)。
 なお、この判決は、外壁通気層の給気口未設置(サイディング下端と土台水切りが密着している)という施工不良については、加盟店向けFCマニュアルの「外装材下端と水切り上端とが完全に密着しているような図示」について「主として外壁の施工順序や使用する材料について説明するものであり、換気口(給気口)について説明を加えるものではない」「換気口(給気口)を設けることは施工上の常識と考えられる」として、「マニュアルにおいて必ずしも明確でなかったとしても、実際の施工において十分な換気口(給気口)が設けられなかったことにつき被告が不法行為責任を負うということはできない」としています。
 ここで、断熱層の防水性・気密性確保のために断熱材継ぎ目にテープ施工をすることも、(FCマニュアルに施工しなくて良いとまで書いてあるわけではなく)「施工上の常識」といえそうな気もするところです(防水性の点では保険の3条確認が存在し、気密性の点では、業界団体や断熱材メーカーの施工マニュアルに施工の指示があります)。
 このテープ未施工については、被告FC本部の責任(FCマニュアルの不備)を認める理由として、「被告が断熱材の継ぎ目に気密防水テープを貼る必要はないとの認識」であったという主観的事情が影響しているかのような判決の書きぶりは、ちょっと釈然としないところです(FCマニュアルの指示に不備があるか否かという客観的評価に、被告FC本部の主観的認識を持ち込む理由はないような)。こちらとして、被告FC本部の責任が認められるという結論自体にもちろん文句はないのですが。
 本件とは直接関係しないのですが、もうひとつ気になっていたのは、仮に本件建物に使用された外張断熱材が、発泡プラスチック系のうち非常に吸水性の低いポリスチレンフォームだとしたら、継ぎ目に気密防水テープを貼らなくても「建物としての基本的な安全性を損なう」外壁防水の瑕疵とはならないのだろうかということです。
 継ぎ目テープ未施工→吸水による断熱材の劣化→建物の防湿防露性能の低下→躯体の腐朽やカビ発生・・という最終的な不具合現象の深刻さから、その原因となる瑕疵が「生命,身体又は財産」を侵害するものだという評価になるのだと思いますが(実は、一審ではそこまで主張を掘り下げておらず、おそらくは判決もそこまでは考えていない)、吸水性の低い断熱材の場合(継ぎ目にちょっと水が溜まって熱橋となるくらい)は、テープ未施工が「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」にはあたらないという判断になるのかもしれません。

**カビの発生:肯定
 
カビの原因である床合板や壁石膏ボードが高含水率となった理由について、判決は、①基礎スラブ上に雨水が溜まった状態での床下地合板施工、②グリーン材使用であると認定しました。
 そして、本件建物の高気密性からすると、壁内や床に湿気が滞留する危険を生じさせるグリーン材使用は許されないとして、「そのことを加盟店に対して十分に指導すべ注意義務があるというべきところ、被告が加盟店に対してどのような指導をしていたのかは被告の主張によっても明らかでないし、加盟店向けのマニュアルににおいてもグリーン材の使用を禁止するとの記載はない」「被告は、グリーン材の使用禁止に関して加盟店に対する十分な指導を行ったとは認められず・・それが一因となって・・カビが発生したものといえる」「広範囲にカビが発生する状態は、建物としての基本的な安全性を損なうものであることは明らかであるから、この点について被告は不法行為責任を免れないというべきである(なお、上記のとおり、カビの原因の1つは本件施工会社が基礎スラブ上に雨水が溜まった状態で床下地合板を張るなどしたことにあると認められるが、グリーン材の使用と相まって結果発生につながったと考えるのが相当であり、原因が競合したからといって被告の不法行為責任を否定することはできない。)。」と判示しました。
 この点について大いに引っかかったのが、グリーン材使用禁止の指導不足について被告FC本部の責任を認定する一方、カビの競合原因である「基礎スラブ上に雨水が溜まった状態で床下地合板を張るなどした」施工については、被告FC本部の指導対象外であるかのような()内の判示です。「基礎スラブ上に雨水が溜まった状態で床下地合板を張るなど」しないというのは、この判決が各所でいう「施工上の常識」だという言外の判断かと思いますが、先述の通り、私としては、グリーン材使用回避の方が「常識」という感が強いです。壁内や床下の湿気を外部に排出することが困難だという建物特性から、グリーン材使用禁止について明示的に指導を要するというのなら、雨養生の徹底や、下地・仕上施工は建物躯体が十分に乾燥した状態で行うということも要指導事項ではないでしょうか。

*損害
 被告FC本部の不法行為責任との関係では認定落ちした瑕疵が多いわりには、責任が認められた瑕疵の補修だけでも屋内外からのスケルトン化が必要となる関係上、補修費用として、建物の基礎より上部を全て撤去・再築する費用をそう下回らない額が認定されました。
 補修期間中の転居費用・調査費用・弁護士費用等も含め、訴額の9割以上の額が損害認定され、金額的には大勝ちという結果でした。
 納得いかなかったのは、瑕疵発覚後の精神的苦痛についてもかなり頑張って立証したにもかかわらず「本件建物の瑕疵を修補するだけの金銭的賠償を得られる限り、原告の精神的損害はそれによって回復されるというべきであり、修補費用に加えて慰謝料の賠償までは認められない」とされた点です。
 一生に一度の買い物といわれる戸建住宅新築にあたって、カビや結露とは無縁という性能に着目して選定したFC住宅がカビだらけになり、加盟工務店からもFC本部からも対応を拒絶されて味わった精神的苦痛が、補修の金銭賠償で回復されるという論理は理解できないところです。
 どうも、青林書院「リーガル・プログレッシブ・シリーズ14建築訴訟」発刊後、建築訴訟の慰謝料認定率が非常に低くなった印象です。この書籍は、大阪地裁建築集中部に在籍した裁判官が執筆した実務書で、全体的には使い勝手が良いのですが、「建物に瑕疵があることによる損害は、基本的に財産的損害であり、これが賠償されれば、原則として精神的損害も塡補される」「したがって、施主が財産的損害の賠償を受けただけでは償われない多大な精神的苦痛を被ったというような特段の事情がない限り、慰謝料を損害として認めることはできないというものと解される」などと書かれているのはいただけません。
 しかしこれに続く、「ただし、特に個人向けの住宅については『一生に一度の買い物』というべき場合が多く、瑕疵の性質・内容・程度等によっては、上記特段の事情が認められる余地もあり得ると考えられる。」という規範に照らせば、本件はまさに「特段の事情」事案だろうと思うのですが。
 ただ、近年、建築訴訟で慰謝料請求が認容されたという話をちらほら耳にするようになり、私が担当した事件でも、昨年の判決で慰謝料請求が認められました。建築紛争を担当する裁判官は、この書籍を非常に活用しているようですが、おかしいところはおかしいものとしてご自分で英断する方が増えることを望みます。

*余談
 
一審判決の大筋は納得いくもので、上記の通り粗や不満ポイントが皆無というわけではありませんが、当時そんなに気になりませんでした。
 判決の微妙ポイントが認容額にあまり影響しなかったという事情もありますが、担当裁判官の仕事に誠実さが感じられ(記録をきちんと読まれていて、基本的には訴訟指揮や進行管理が的確)、コミュニケーション能力も高い方だったというのも大きな要因だったかと思います。
 人間、人が言うことの受け止めは「何を言われるか」「誰に言われるか」の総合評価というところがあると思います。どちらの当事者が読んでも論理的に100%隙のない完璧な判決や和解案(争点複雑な事件ではおそらく存在しない)とか、逆に、ありえないレベルの不当判決などであれば、担当裁判官のキャラクターや審理経過によって当事者の受け止めが変わるということはないでしょうが、「大筋は納得するけど部分的に納得いかない」という内容の場合(世の多くの事件の判決はたぶんこれでしょう)、「あの裁判官の判断だと思えば満足する」「めちゃくちゃ不満」のどちらとなるかは、上記の要素がかなり大きく影響するように思います。
 裁判官は頭の良さも大事なのでしょうが、結局かなり人間性勝負のお仕事なのではないかと感じるところであります。

 ということで、こちらは一審判決について控訴の意向はありませんでしたが、被告側から控訴されてしまいました。
 控訴審は、思い出すにも歯がゆいところの多い展開と結末でした・・

(続く)

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