横浜市都筑区のマンションが基礎杭の支持層不到達により傾斜したというニュースが連日報道されています。私自身、基礎杭の支持層不到達による建物の不同沈下事件を抱えていることもあって、推移を注視しています。
欠陥住宅問題に取り組む全国の弁護士、建築士のメーリングリストでも、基礎工事やマンション特有の問題について白熱した議論が展開されています。
まず、基礎設計・施工に関する問題です。基礎杭を「支持層」とよばれる強固な地盤(一般に、地盤強度の目安となる数値「N値」が50以上)に到達させるため、設計に先立って計画地の地盤調査が行われます。メジャーな地盤調査の手法として「スウェーデン式サウンディング(SWS)試験」や「ボーリング調査/標準貫入試験」がありますが、マンションなどの大規模建築物の場合、地盤状況をより精密に把握できる後者の方法が主に採用されます。
が、将来的に杭を打設する全地点について調査が行われることはまずありません(特に、ボーリング調査は費用も時間もそれなりにかかります。日本建築学会の文献などでは、一般的な建築計画の場合、20~50m間隔の調査で事足りるとされています)。つまり、調査をしていない地点の支持層深度は、地盤調査実施地点の支持層深度から地層の深度変化の傾向を読み取ることによって推定するのです。
この支持層変化の推定を正確に行うことができれば問題はないのですが、このマンション敷地地盤の支持層は「横浜土丹層」という地層で、地層表面の不陸が激しいため、深度変化が推定しにくいという話が出てきています。
さらに、杭工事の手法と関連する問題があります。コンクリート杭の施工は、①既製品の杭(PC杭:プレキャストコンクリートパイル)を打ち込む工法と、②地盤に円柱状の穴を掘り、鉄筋を落とし込んだ後にコンクリートを流し込む「場所打ち」とよばれる工法とに大別されます。
①の工法でも、地表面からいきなり杭を打つのではなく、まずアースオーガーと呼ばれる掘削機で支持層まで地盤を掘削し、その掘削孔に既成杭を挿入して打設します。協力建築士さんから以前教えてもらったところによると、この孔の先掘り段階で、オーガーの電流計や掘削時の感触から支持層への到達が判別できるそうです。問題のマンションでは、この電流計のデータが偽装されたという報道がなされています(私の担当している事案でも、まさにオーガー掘削の段階で、用意したPCパイルの長さでは支持層に届かないことがわかっていたであろうというものです)。
上記のメーリングリストには、横浜マンションの杭工事施工担当者は、この先掘り段階で、用意された既成杭の長さよりも支持層深度が大きいということに気づいたはずだが、工期や予算の都合で杭の再発注をしなかったのではないか、マンションは引き渡し時期が2月3月に設定されることが多く、工期の延長は許されないし遅延損害金も膨大になるという背景があったのではないかという複数の投稿がありました。
また、基礎杭の支持力には「安全率」という一定の余力があるので、担当者としても、数本の杭が支持層に届かなくても、まさか建物が沈下することはないだろうという油断があったのではないでしょうか。
このように、既成杭の支持層不到達という事態は、計画・設計上の問題(計画地に応じた地盤調査箇所・数の選択ミス)、施工上の問題(基礎杭の工法特性や、工期・予算を背景としたモラル欠如)、工事監理の問題(施工不備の見逃し)という事情が絡み合って生じるものといえます。
そして、マンション欠陥問題の解決には、マンションならではの問題を乗り越える必要があります。例えば、建て替えについては、区分所有法に基づいて管理組合総会による特別決議が必要となりますが、解決方法に関して多様な意向を持つ組合員の間でこの決議を成立させるのは至難の業です。
このような重要決議事項に限らず、マンションの欠陥を巡る紛争では、組合員の合意形成が難しいことが多いというのは痛感するところです。
また、本来は問題の解決に向けて管理組合をサポートすべき管理会社がデベロッパーの子会社であることが多く、デベロッパーや建設会社に対して遠慮があるという構造があります。管理組合としては、別の管理会社に切り替えることも検討すべきでしょう。
今回のような問題を防ぐためには何をどのように変えていくべきか、メーリングリスト上でも議論は尽きません。
現状の建築行政が欠陥防止の点で有効に機能していないから、アメリカのインスペクター制度にならい「住宅検査官制度」を導入して行政による工事監督を強化すべきだという意見が主力ですが、マンション建設に関わる業界構造自体を改めなければ根本抑止にならないという意見が印象的でした。
工事完成が遅れた場合、デベロッパーが購入者に支払う違約金は完成遅延の原因となった工事の施工業者(下請・孫請業者)が負担させられるが、杭工事のような不確定要素の大きい工事による不測の事態が生じた場合は、デベロッパー、元請業者も含む販売・施工関係者全員でそのコストを背負うべきだし、購入者も入居予定日の遅延を受け入れるべきだ、不確定要素による工事費用増額を下請業者に被らせるのではなく、デベロッパーや元請業者が負担すべきだという指摘に、なるほどなぁと感服しました。
今回、聞いた話の受け売りが多いコラムとなりましたが、これからも情報を追っていきたいと思います。