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コラム/近況報告
掲載日: 近況報告

タイトル欠陥住宅全国ネット東京大会に行ってきました

 もう3ヶ月前になりますが、5月の週末に、欠陥住宅被害全国連絡協議会(通称・欠陥住宅全国ネット第42回東京大会に参加してきました。
 大会1日目のプログラムでは、東日本大震災でも一部地域に大きな被害を生じた、地盤の液状化問題が取り上げられました。国交省の技術指針・裁判例・東京都の取り組み・地盤品質判定士の役割と課題・地盤や液状化に関する保険制度といった個別のテーマについて各専門家の方から解説がなされ、液状化に関する事件の経験がない私は、目新しさで聞き入っていたところです。
 本当は、備忘のために記憶が新しいうちに詳細をまとめておきたいのですが、学校に通い出してからとにかく時間がなく、東京大会の全容を記事にしようと思うと、ハードルが高くていつになるかわかりません;;

 ということで、今回は、大会2日目のテーマ「中古住宅にかかわる最近の状況と問題点」についてだけ、概要をご報告したいと思います。
 担当の欠陥住宅京都ネットメンバー(弁護士・建築士)の方から、まず、「中古住宅売買における仲介業者の調査・説明義務」について解説をいただきました。
 宅地建物取引業法(宅建業法)35条は、不動産取引を仲介する宅建業者が、仲介の相手方に対して説明すべき重要事項の内容(不動産の権利関係・法令等による各種制限・インフラ整備状況等)を明記しています。
 また、裁判例上、宅建業法35条が定める事項のほかにも、宅建業者は、不動産売買仲介の相手方(購入希望者)に重大な不利益をもたらすおそれがあり、その契約締結の可否の判断に影響を及ぼすことが予想される事項を認識していた場合には、その説明義務を負うとされています。
 仲介物件の瑕疵についても、宅建業者は、売主の提供する情報に頼ることなく、物件の外観(屋内含む)から認識することができる範囲で自ら調査をし、その情報を購入希望者に提供すべき義務があるとされています。
 大会では、仲介物件の雨漏り、傾斜、白蟻被害、火災による焼損等の事案について、仲介業者の説明義務違反が争われた裁判例多数の分析結果が報告されました。全体的な傾向としては、やはり、建物の外観から容易に判別可能な瑕疵の疑いを見逃した場合に責任が認められる傾向がうかがえました。

 続いて、昨年改正・平成30年施行の宅建業法改正によって新設された、中古住宅売買時の建物状況調査(インスペクション)制度について報告がありました。この法改正は気になりつつ、勉強に手が回っていなかったので、とても助かりました。
 国交省作成の資料によると、この制度は「不動産取引のプロである宅建業者が、専門家による建物状況調査(インスペクション)の活用を促すことで、売主・買主が安心して取引ができる市場環境を整備」するものです。
 インスペクション導入後の取引の流れは、①(売買の媒介契約締結時)宅建業者がインスペクション業者あっせんの可否を示し、依頼者の意向に応じてあっせんする→②インスペクション実施→③(重要事項説明時)宅建業者がインスペクション結果を買主に説明する→④(売買契約締結時)基礎・外壁等の現況を売主・買主が相互に確認し、その内容を宅建業者から売主・買主に書面で交付する→⑤物件引き渡しとなるようです。
 国交省の説明によると、制度導入の効果として、上記①の際、インスペクションを知らなかった消費者のサービス利用が促進される、②の際、建物の質をふまえた購入判断や交渉が可能になる、インスペクション結果を活用した既存住宅売買瑕疵保険の利用が促進される、③の際、建物の瑕疵をめぐる物件引き渡し後のトラブルが防止できるということになっています。こうして、中古住宅の流通性を高めようというのが国の狙いということです。
 しかしこの制度、本当に消費者(中古住宅購入者)利益の保護につながるのか、いろいろと疑問がありますよね・・というのが大会報告のテーマでした。
 インスペクションの内容については、平成29年2月、国交省が「既存住宅状況調査方法基準の解説」に定めています。調査の対象は、「構造耐力上主要な部分」及び「雨水の浸入を防止する部分」の「劣化事象等(劣化事象その他不具合である事象)」とされており、「少なくとも歩行その他の通常の手段により移動できる位置において、対象部位のうち少なくとも移動が困難な家具等により隠蔽されている部分以外の部分について行う」ものとされています。
 調査対象とされる主な劣化事象等として、例えば木造住宅では「構造耐力上主要な部分」の「ひび割れ」「傾斜」「劣化または欠損」「著しい蟻害」「著しい腐朽」等や、「雨水の浸入を防止する部分」の「シーリング材の破断または欠損」「雨漏りの跡」等が挙げられています。調査の方法は、原則として「目視」や「計測(ひび割れや傾斜等の場合)」です(外壁仕上げ材の浮き等は打診、外壁開口部は建具操作が加えられています)。なお、床下の調査範囲については、「顔又は上半身の一部を点検口に入れる程度で行うことを想定している」そうです。
 要するにこの調査は、容易に目視できる範囲で、すでに顕れている不具合事象をチェックするというものです。例外的に、基礎鉄筋の本数や間隔については機械を用いた調査を行うこととされていますが、小規模住宅の場合、基礎に劣化事象が生じていなければ上記調査の必要はないものとされています。
 こうした制度概要からすると、第一に懸念されるのが、消費者がインスペクションについて抱くであろう期待や信頼と、実態とのかい離です。
 インスペクション結果に形式的な問題がない場合、多くの消費者は、購入しようとする中古住宅の安全性に専門家のお墨付きがあると捉えるのではないでしょうか。しかし、その調査範囲は、容易に目視できる限定された部位にすぎません。また、インスペクションの過程で、劣化事象等ではない新築当初からの明白な瑕疵(例えば、建物軸組の緊結不良)などが見つかった場合はどうなるのでしょうか。制度上、インスペクションの対象は瑕疵ではなく、「劣化事象等」とされているのですから、インスペクターが(新築当初から存在する)瑕疵を発見した場合も、建前としては、インスペクション結果として売主等に報告する義務はないということになります。しかし、これでは、買主として「購入建物の質をふまえた購入判断や交渉」が可能にならないことは明らかです。
 その他の問題点として、仲介業者が、買主に対して、容易に発見可能な物件の瑕疵について説明義務を怠った場合にも、インスペクションの報告結果があることを盾に、仲介業者は免責されるという主張を許す余地があるのではないかということや、売主が買主に対して瑕疵担保責任を負う「隠れた瑕疵」の判断について、インスペクション結果の報告内容によっては、大いに争われるのではないかという懸念などが指摘されていました。
 この中古住宅売買のインスペクション制度をめぐる問題、運用開始後には、本当に現実化しそうなものがたくさんあるように思えます。
 中古住宅購入者にとって、このインスペクション制度を過度に信頼することはやはり危険だといえそうです。私個人的には、中古住宅の購入を考えられる方には、(経年劣化事象か元々の設計施工不良によるものかを問わず)建物の瑕疵・不具合現象全般を対象とした調査を、欠陥住宅の調査に長けた建築士に依頼することをお勧めします。多少の費用をかけても、より大きな情報を基にした購入判断や、売主との条件交渉等に役立つという点で十分元は取れるでしょうし、本当の安心を買うことにつながるのではないでしょうか。

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