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掲載日: 近況報告

タイトル欠陥住宅全国ネット大阪大会に行ってきました(1)

 6/4(土)、6/5(日)の週末に、欠陥住宅被害全国連絡協議会(通称・欠陥住宅全国ネット)第40回大阪大会に参加してきました。
 欠大阪大会②陥住宅全国ネット設立20周年記念大会でもあり、開催地は地域ネットの活動が盛んな大阪ということもあってか、会場に入っただけでいつもの大会より明らかに参加者が多いのがわかりました。(後で大会事務局の先輩弁護士からお聞きしたところでは、通常の大会は参加者が約150名で、今回は約200名とのこと。もっと多く感じまし
たが・・)
 今大会のテーマは、全国ネットのメンバーが欠陥住宅事件に取り組んできた成果(解決した問題)と、残された問題について再確認するというものです。
 1日目の主なプログラムは、⑴特別講演「欠陥住宅紛争事件の総括」(立命館大学大学院法務研究科・松本克美教授)、⑵欠陥住宅事件(裁判)にとって「残された問題」である様々な論点の整理・解説(各地の弁護士)、⑶熊本地震被害報告(われらが「欠陥住宅ふくおかネット」)でした。

 松本教授は、全国ネットの貴重な学者メンバーとして、熱心にネットの活動に取り組んでいらっしゃる方です。欠陥住宅に関する重要判例が出るたびに、全国大会で松本教授の解説をお聞きしていますが、今回のご講演はその総括といった感じです。
 講演では、欠陥住宅に関する判例法理の概観として、以下の最高裁判例が取り上げられました。
①重大な瑕疵のある建物について、建て替え費用相当額の損害賠償請求を認めたもの(平成14年9月24日)
②工事請負契約上の重要な合意事項に反して、細い鉄骨が柱に使用された建物(構造計算上は安全性に問題なし)について、柱の工事に瑕疵があると認めたもの(平成15年10月10日)
③瑕疵ある建物の建築工事について、名義貸し工事監理者(建築士)の責任を認めたもの(平成15年11月14日)
④建物の建築に携わる設計者・施工者・工事監理者は、契約関係にない第三者に対しても、建物に「建物としての基本的な安全性」が欠けることのないよう配慮すべき注意義務を負うとしたもの(平成19年7月6日)
⑤新築建物に重大な瑕疵があって建て替えざるを得ない場合、その建物が社会経済的な価値を有しないと評価されるときは、建物買主の工事施工者等に対する損害賠償請求の額から、買主がその建物に居住していたことによる利益を控除しないとしたもの(平成22年6月17日)
⑥「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」(上記④)とは、居住者等の生命・身体・財産を危険にさらすような瑕疵であり、居住者等の生命等に対する現実的な危険をもたらしている場合に限らず、瑕疵の性質に鑑みて、放置するといずれは危険が現実化することになる場合には、その瑕疵は「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」に該当するとしたもの(平成23年7月21日)

 こうして判決要旨を再確認してみると、当たり前の内容ばかりで認められて当然だと言いたくなるのですが、弁護士の諸先輩方がこれらの最高裁判例を獲得されるまでには多大なご苦労があったことと思います。別府マンション事件の第二次最高裁判決(上記④)には、私自身が弁護団員として深く関わったこともあり、当たり前のことを認めてもらうために理不尽な地裁判決や高裁判決と闘わなければならない事件の大変さは身に沁みているところです。本当にこの事件の第1次~第3次控訴審判決の酷さといったら・・

 松本教授は、これらの最高裁判決とも絡めながら、120年ぶりの大改正が予定されている民法の改正案が建築紛争にもたらす影響についても解説されました。 建築紛争との関係で真っ先に問題となる民法の条文といえば、売買や請負の瑕疵担保責任ですが、改正案では「瑕疵」という文言自体が削除され、「契約の内容に適合しないもの」と言い換えられています。そのために契約の解釈をめぐる紛争の増加が予想されるといったように、瑕疵担保責任の内容変更や免責事由の新設、建築工事請負契約の解除制限撤廃といった諸々の改正案について、消費者にとって有利な点・不利な点という切り口から、想定される争点まで解説していただきました。

 続いて、各地の弁護士の方が、㋐建築訴訟における瑕疵判断基準、㋑不法行為責任における「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」の位置づけ、㋒損害論(相当補修方法の確定・補修費用算定等)、㋓既存不適格建物の容認、㋔宅地造成不良、㋕リフォーム被害といった「残された問題」について、整理されたレジュメを基に解説されました。
 個人的には、特に㋑、㋔、㋕の問題について強い関心を持っています。 ㋑は、上記④の別府マンション事件第一次最高裁判決の射程の解釈に関する問題です。 この最高裁判決によって、設計者・施工者・工事監理者は、設計・施工・監理契約の当事者である建築主以外の第三者に対しても、「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」について不法行為責任を負うことが明らかにされたという点で、建築紛争において極めて重要な判決です。
 一方で、設計施工者等は、直接の契約関係にある建築主に対しては、契約で定めた通りに建物を設計・施工・監理する義務を負っているわけですから、この義務に反して瑕疵が生じたという場合、その瑕疵が「基本的な安全性を損なう瑕疵」に当たらない場合であろうと、不法行為責任を免れないと思うのです(例えば、上記②「柱の太さ事件」のように、構造安全性に関する契約に違反した施工でも構造計算上は問題がないという場合や、美観・意匠の問題など)。
 ところが、別府マンション事件の最高裁判決以降、建築主が設計施工者等に対して建物の瑕疵に関する責任を追及する場合にも、「『建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵』には当たらないから不法行為責任は負わない」という反論が当たり前のようになされ、地裁・高裁の裁判例などでも、契約当事者間において不法行為責任の成立する瑕疵を、「基本的な安全性を損なう瑕疵」に限定しているのではないかと思える節があります。
 契約当事者である建築主が設計施工者等に対して瑕疵の責任を追及する場合には、瑕疵担保責任も追及するケースがほとんどですから、紛争時にこの問題が必ず顕在化するわけではないのですが、瑕疵担保責任の除斥期間がすでに経過しており、不法行為責任しか追及できないという場合には、その対象となる瑕疵の範囲というのは大きな問題となります。この問題については、いつか裁判で白黒はっきりさせたいという思いでいます。

(続く)

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