熊本市内では、3件の建物を回りました。奇しくも、どの物件の問題も擁壁絡みでした。
1件目の建物は、築10年の2×4住宅で、敷地は北側の練積擁壁(高さ10mくらい?)と、西側の道路に面したL型擁壁(鉄筋コンクリート製、高さ1m強)とで土留めされていました。L型擁壁の中間部には上下の大きな断裂が生じており、建物は北側に向かって1000分の20~30程度下がっていました。
建物が練積擁壁の方向に傾いていることから、この擁壁に何か不具合が生じたのかと思われましたが、練積擁壁とL型擁壁の取り合い部分は天端が揃っているのに、L型擁壁の断裂部分より南側は天端が下がっていることや、L型擁壁が面する道路も全般的に陥没していることからすると、練積擁壁の不具合ではなく、建物の敷地を含む付近の地盤一帯が沈下し、それに追随してL型擁壁が下がってしまったようです。
この広範囲な地盤沈下の原因はよくわからないところで、建物建築時の地盤調査結果(スウェーデン式サウンディング試験)によると、地盤が砂質土ではないので液状化を起こしているわけではありません。比較的浅い位置に粘土質の自沈層があるようですが、地震によって短期間に圧密が起きるというのも考えにくいところです。
とりあえず、断裂したL型擁壁にさほど土圧がかかっている様子はないことから、(擁壁の撤去・新設費用は高額になので)化粧的な補修をお勧めしました。また、建物の不同沈下はアンダーピニング工事による補正が望ましく、費用は数百万円が見込まれますが、所有者の方は幸いに地震保険に加入されていたということで、費用の大半は保険で賄うことができそうでした。
2件目の建物では、敷地境界部の重力式擁壁がやや転倒しており、擁壁の継ぎ目にズレが生じていました。もっとも、そのズレはさほど大きなものではなく、震度7程度の地震に暴露した結果としてはやむを得ない現象とも考えられるところです(擁壁の設計施工に明らかな瑕疵が疑われるケースとまでは言えなさそうです)。これ以上継ぎ目の開きや擁壁の転倒などが進行する様子がなければ、それほど心配する必要はないように思われました。
ただ、建物は擁壁の方向に向かって1000分の4程度傾斜していました。この数値をどう評価するか、また、擁壁の転倒との因果関係をどう判断するかは微妙なところです。
所有者の方によると、ハウスメーカー(敷地の造成も行ったそうです)が、これ以上擁壁の傾斜が進んだ場合には何らか対応するという姿勢らしいので、しばらく様子見で良いのではないかとお伝えしました。
3件目の建物は、欠陥住宅ふくおかネットのチームが前回の調査時にも訪れた物件です。
敷地北側(←おそらく)のL型擁壁が転倒・沈下し、敷地地盤が緩んだことで、建物に1000分の14~15もの傾斜が生じています。
その擁壁は崖(斜面)上に設置されていて、崖の下方(水平距離約10m弱、垂直距離10m強というところでしょうか)には、幹線道路に面した練積擁壁が設置されています。
こうした二段擁壁の上方擁壁や斜面上の擁壁は、下方の擁壁や崖が崩れた場合の影響を避けるために特有の設置基準があり、本来、その基準が守られているのかを確認する必要があります。ただ、この現場では、L型擁壁の下方の崖が崩壊していたり、下段の練積擁壁に不具合が生じている様子はないので、L型擁壁の沈下・転倒はこの擁壁単体の問題だと考えられます。
所有者の方には、このL型擁壁(プレキャストコンクリート製)の設計資料をメーカーから入手されるようアドバイスしました。設計資料から、擁壁の構造設計に問題がないことが確認できれば(さすがに、メーカーの既製品に設計の欠陥があるとは考えにくいでしょうが・・)、擁壁底盤の接地圧等に問題がないかを検討するために、地盤調査をされてはどうかとお勧めしています。引き続き、ふくおかネットの方でお手伝いできることがありそうです。
現在までに欠陥住宅ふくおかネットにお問い合わせをいただいた熊本被災建物の調査はひと段落ついたかなというところですが、ご報告した中に、当ネットの継続支援事案がいくつか出てきそうです。