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掲載日: その他

タイトル西方沖地震というマジックワード

 福岡県西方沖地震とは、平成17年3月20日午前10時30分、福岡県北西沖の玄界灘で発生したマグニチュード7.0、最大震度6弱の地震です(Wikipediaより)。
 などと改めて言うまでもない、よく知られた震災です。当時の私は司法修習の開始を翌月に控えており、西方沖地震のニュースを繰り返し目にしたことを覚えています。

 現在、福岡で弁護士登録をして、欠陥住宅や建築紛争関連の事件を中心に手掛けているわけですが、いろんな事件で、相手方が「西方沖地震」という言葉を持ち出してくるのがもはやお約束だなあと感じています。
 基礎形式の不備で建物が不同沈下したのも、基礎杭が支持層に届いていないのも、近隣工事の振動で建物に生じた亀裂も、みんな西方沖地震のせいだと言い張られます。
 特に建物や擁壁の沈下事案では、「元々は基礎が支持層に届いていたのに、西方沖地震のせいで支持層が下がったから(建物や擁壁が)沈下した」という反論がお決まりのように出てきます。
 そこで、西方沖地震で、地層が沈降するような地殻変動があったのだろうかと調べてみたところ、地殻の水平変動については国土地理院の観測データがあるようです(http://www.gsi.go.jp/WNEW/PRESS-RELEASE/2005-0320.html)。が、垂直方向の地殻変動の実例等は見つけられませんでした。
 地震工学の専門家ではないので素人的所感になりますが、少なくとも、震度4~5程度の地域で地層の沈降が起きたと言われてもピンときません。また、建物建築前の地盤調査によって、元々支持層が基礎の下端よりずっと低い位置にあることが判明しているとか、近隣建物は特に沈下を起こしていないという事情にもかかわらず、地震のせいでこうなった(特定の建物だけ沈下した)という言い分には、何だかなあと思うところです。

  建物の耐震性に関する瑕疵の指摘に対しては、「西方沖地震を経ても建物が壊れていないから大丈夫(補修を要するような瑕疵ではない)」という反論もよくなされます。
 現在の建築基準法(新耐震基準)では、震度5~6の地震に対して損傷せず、震度7の地震に対しても倒壊しないということを目標にしているので、震度4~5程度の地域で建物が壊れていないから大丈夫だとはいえないと再反論するのも、もはやルーティン感が漂ってきました(この点は、実はもっと色々な論点もあるのですが)。

 地震と瑕疵の関係が重要な争点になるような事件類型は確かにあって、地震によって実際に建物が損壊・倒壊したというケースでは、建物が(建築時の)所定の耐震性能を備えていたかどうか、その地域の地震動の大きさ、瑕疵と損壊・倒壊の因果関係といった点が問題になります。
 が、私が担当した事件のほとんどでは、西方沖地震という言葉が単に便利遣いされているだけという印象です。関西や東北の建築裁判でも、阪神大震災や東日本大震災をいいように利用した主張が繰り広げられているのだろうかと想像してみたりします。
 これからも福岡で建築紛争事件をやっていくからには、対「西方沖地震」の主張マニュアルなどを作ってみようかと思う今日この頃です。

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