Topページコラム/近況報告法律 › 不具合があるのに・・工事代金は支払うべき?(3)
コラム/近況報告
掲載日: 法律

タイトル不具合があるのに・・工事代金は支払うべき?(3)

 瑕疵の補修・損害賠償請求権をもって工事残代金全額の支払との同時履行を主張できるかという判断にあたっては、最高裁判決(平成9年2月14日)の示す通り、当事者間の交渉経過も重要となります。(この点も重視して、注文主による同時履行の主張が信義則に反するとした福岡高裁平成9年11月28日判決があります)
 注文主としては、瑕疵の問題が解決しない限りは工事残代金を支払わないという態度を明確にしつつ、施工業者に対して誠実に交渉を申し入れるべきでしょう。

 前回お話ししたような難しい判断はありますが、工事の瑕疵が明らかなのに、注文主として工事残代金を支払ってしまうというのは、施工業者からの損害賠償金回収や補修の確保という点でリスクとなります。
 私が以前受任した事件の話です。自宅新築工事に多数の不具合があったにもかかわらず、施工業者を紹介してもらったのが親族の人だったという事情もあり、建築主の方が「やるべきことをやって(工事代金を支払って)から文句を言う」という方針を取られ、工事残代金を全額支払ってから、瑕疵の問題についてご相談に来られたということがありました。
 損害賠償請求の裁判をして、最終的に設計者と施工業者からそれなりの和解金を回収することはできましたが、両者とも、個人営業の建築士・工務店で資金力も不透明でした。工事の瑕疵に関する処理について合意に至らないまま、このような相手方に残代金全額を払ってしまうというのは大きなリスクです。

 最後に、工事代金の請求と同時履行関係にあるのは、あくまで、工事の瑕疵に関する損害賠償や補修請求であるということを確認しておきたいと思います。
 私が控訴審から受任した事件の話です。賃貸用のマンション1棟を新築した建築主の方が、施工業者から工事残代金の支払を求められたのに対し、①工事の瑕疵と、②(施工業者の工事の進め方が極めてずさんであるため)建築主自ら施工管理を行ったことによる休業について、相手方に損害賠償を請求したというものがありました。
 一審の記録からすると、工事の瑕疵として取り上げられている内容は、補修を要する瑕疵と認められるかどうか極めて微妙なものでした。また、建築主が施工管理を実施したことによる休業損害は、工事残代金の10分の1以下の額でした。一審判決は、建築主の請求をほぼ排斥し、施工業者の請求をほとんど認めたのですが、一審判決言い渡しの時点で、工事残代金の数千万円に対して、その半額ほどの遅延損害金が発生していました。
 控訴審受任後、私のご紹介した建築士の方に物件を再調査してもらいましたが、一審で取り上げられたもの以外にさしたる瑕疵は見つからず(建築主の方が苦労して施工管理されただけあって、施工の不具合は工事中にかなり是正されていたようです)、実質的には、一審判決が建築主の休業損害を認めなかった不当性のみを取り上げて主張することになりました。
 結局、控訴審では、建築主の資力不足も強調する形で、遅延損害金はほぼ考慮しない内容(工事残代金元金-建築主の休業損害+αの支払い)の和解がなんとか成立したので事なきを得ました(?)が、一審代理人が、工事代金の支払と同時履行関係にある上記①の損害賠償等は認められるかどうか微妙であること、上記②の損害は、そもそも工事代金支払と同時履行関係にないことなど、工事代金の未払によるリスクを依頼者に対して一切説明していなかったという点については、首をかしげざるを得ないところでした。

  このように、工事残代金の支払と工事の瑕疵を巡る問題には、個別の事案ごとに悩ましい判断がありますので、迷ったときには信頼できる弁護士に相談されることをお勧めします。

ページも先頭へ