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コラム/近況報告
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タイトル不具合があるのに・・工事代金は支払うべき?(2)

 瑕疵の程度や重要性という点からみて、その瑕疵に関する損害賠償請求等を主張して、工事残代金全額の支払を拒むことにリスクがある(裁判になったとき、残代金全額との同時履行関係が認められない可能性がある)のは、どのような場合でしょうか。

 私がこれまで受任した事件では、工事代金支払と損害賠償・補修請求との同時履行の範囲が大きな争点になったということはなく、裁判例等を調べつくしたわけではないので私見の域を出ませんが、瑕疵の性質や、施工基準違反の程度、瑕疵の数などの総合考慮によって判断されるのではないかと思います。
 例えば、瑕疵の内容が建物の構造安全性や耐火安全性に関わることであれば、間違いなく性質上は重要な瑕疵であるといえるでしょう。ただし、その施工不良の程度が極めて軽く、施工誤差の範囲に留まっているような場合であれば、そもそも補修請求が認められない可能性が高いわけですから、工事代金支払との同時履行の主張は難しいと思われます。
 一方、瑕疵の性質としては、仕上げの施工不良といった比較的軽微なものであっても、その箇所数が多く範囲も広いような場合は、瑕疵の程度まで軽微だとはいえないでしょう。
 瑕疵の重要性の判断にあたっては、工事内容との関係も考慮する必要があります。1部屋の壁クロスの1箇所に傷があるという施工不良の例を考えても、工事内容が建物1棟の新築工事なのか、その1部屋の内装工事なのかによって、工事残代金全額の支払と損害賠償請求との同時履行を主張できる重要な瑕疵かどうかの判断は変わってくると思われます。

 また、最終的に証明できる瑕疵かどうかということも考えておく必要があります。工事の瑕疵には、取引上一般的に期待される性能を備えていない状態(客観的瑕疵)と、当事者が特に合意した内容に合致していない状態(主観的瑕疵)とがあります。客観的瑕疵については、法令等の設計施工基準を示し、現実の設計施工がこれに合致していないことを指摘すれば、基本的に証明が可能です。
 一方、当事者間の合意に反した設計施工という主観的瑕疵の場合、その合意の成立を証明する資料が極めて不十分で、最終的に瑕疵の存在自体を立証することが難しいと思われる場合があります。注文主にとっては、一般的な設計施工基準とは別にわざわざ合意した事項なのですから重要に決まっているのですが、その合意内容が設計図書や打ち合わせ記録に反映されていなかったりすると、合意の存在を立証することが後々困難になります。重要事項について担当者と口約束するだけ、という事態は避けておきたいものです。
 裁判などで長々もめた結果、瑕疵に関する損害賠償請求等と工事代金支払との同時履行関係が否定されてしまった場合は、下記のように工事の注文主が重大な不利益を被る可能性があるのですから、不幸にして主観的瑕疵について十分な立証資料がないという場合には、慎重な判断が求められるところです。

 工事残代金全額の支払と、瑕疵に関する損害賠償請求等との同時履行関係が否定されてしまった場合に注文主が負うリスクとは、工事残代金に対する遅延損害金の支払です。建設業者が使う契約書では、工事代金の支払遅延に関する損害金が年10%~14.6%と高利率に設定されていたりしますので、紛争が長期化した結果、最終的に注文主が多額の遅延損害金を支払わなければいけないとなれば目も当てられません。

 実際のところ、最高裁判決(平成9年2月14日)の事案からすれば、工事残代金全額の支払と瑕疵に関する損害賠償請求等との同時履行が認められる場合はかなり多いと思われますし、工事代金と瑕疵を巡る裁判は、遅延損害金をほぼ考慮しない内容の和解で終結することも多いので、遅延損害金の支払が現実化するケースはかなり少ないのかもしれません。
 しかし、方針を間違えれば上記のリスクが現実のものになってしまうので、事案に応じた適切な対処が求められる問題です。

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