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コラム/近況報告
掲載日: 法律

タイトル不具合があるのに・・工事代金は支払うべき?(1)

 建物を新築(あるは増改築)した人が何らかの不具合や欠陥に気づくのは、その建物に住み始めて、ある程度時間が経ってからということが多いと思います。
 しかし、工事の過程をマメにチェックされている建築主さんの場合、工事の途中から設計施工の不手際に気づかれることがありますし、不具合の性質によっては、完成引き渡し時のチェックですぐにわかるというものもあります。施工業者に改善を求めても言うとおりにしてもらえず、手直しがされないまま工事の残代金を請求されているけれど、払わなければいけないのか?というご相談を受けることが時々あります。

 一般的な回答としては、「払わなくていい場合が多いけれど、不具合の内容や交渉状況によっては一部払っておいた方が無難」ということになります。

 工事に欠陥(瑕疵)がある場合、建築主は、施工業者に対して、補修や損害賠償を請求することができます。法律上、それらの請求権と、施工業者の工事代金請求権とは「同時履行」という関係に立つとされています。同時履行とは、契約当事者がお互いに相手方に対して請求権を有している場合に、相手方がこちらの請求に応じなければ、こちらも相手方の請求を拒むことができるという関係です。つまり、建築主は、瑕疵の補修や損害賠償を受けるまで、施工業者に対して残代金の支払を拒むことができるのです。

 では、工事の残代金に比べて瑕疵の補修金額が極めて小さいような場合、建築主は、その損害賠償請求権をもって、工事残代金の全額について同時履行を主張できるでしょうか。例えば、瑕疵の補修費用が100万円、工事の残代金が1000万円という場合に、建築主は瑕疵の補修または損害賠償を受けるまで、工事残代金1000万円全額の支払を拒むことができるでしょうか。あるいは、瑕疵補修費用相当額の100万円分を超える部分(900万円)については支払を拒めないのでしょうか。
 この問題について、最高裁判決(平成9年2月14日)は、工事代金請求権と瑕疵に関する損害賠償請求権とは、(双方の金額差等にかかわらず)同時履行関係に立つことを前提としつつ、「瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等に鑑み・・瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬残債権全額の支払を拒むことが信義則に反すると認められるときは、この限りではない」としています。また、民法上、瑕疵が重要ではなく、しかも補修に過分の費用がかかるときには補修の請求が認められないとされていることに触れて、そのような場合にも、必ずしも同時履行の主張が認められるわけではないと指摘しました。
 この判決の事案は、住宅新築工事の残代金約1184万円、瑕疵の補修費用合計額は約82万円というものでした。認定された建物の瑕疵は、和室の床の中央部分が盛り上がって水平になっておらず、建具の開閉が困難になっていること、納屋の床にはコンクリートを張ることとされていたのに、強度の乏しいモルタルで施工され、しかも、その塗りの厚さが不足していて亀裂が生じていること、設置予定とされていた差掛け小屋が設置されていないこと等です。交渉経過に関しては、施工業者が注文主の提示した解決案を拒否したのみで具体的な対案を提示せず、交渉が決裂してしまったと認定されています。
 この事案について、判決は、①瑕疵の内容は重要でないとまでいえないし、補修に費用がかかりすぎるともいえないこと、また、②当事者の交渉経過等からすれば、損害賠償請求権をもって、工事残代金請求権全額との同時履行を主張することが信義則に反するものとはいえないと判断しています。

 この最高裁判例からは、工事残代金全額の支払を拒むことが信義に反するかを判断するうえで、瑕疵に関する要素としては、その瑕疵が重要なものかどうかということが肝心(その補修金額が大きい小さいということは直接的には影響しない)ということになります。実際、下級審裁判例にも、瑕疵の補修費用が工事残代金の10分の1を下回るようなケースについて、同時履行関係を認めているものが見受けられます。

 しかし、「瑕疵の程度」とか「重要な瑕疵」にあたるかどうかというのも、明確な判断基準があるわけでもなく、実際に当事者になった場合には判断に迷ってしまいそうです。

 そのような事態に直面した場合の注意点について、引き続きお話ししたいと思います。

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