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コラム/近況報告
掲載日: 敷地・地盤

タイトル擁壁がある土地を購入するとき気をつけたいこと(2)

◆既設擁壁は安全か?
◇法令手続の遵守が確認できるか
 では、土地に既設の擁壁の安全性をどのように判断すべきでしょうか。ひとつの安心材料となるのは、法令の手続に従って築造されたことを証明する書類です。
 高さ2mを超える擁壁を築造する場合、建築基準法により、同法令の規定(技術基準)に適合するものとし、建築確認や完了検査を受けなくてはなりません(厳密には規制対象外となる区域がありますが、一般的な宅地は、ほぼ確実に規制対象だと考えられます)。また、宅地造成等規制区域内の1m超の崖(盛土の場合)または2m超の崖(切土の場合)に擁壁を築造する場合や、都市計画法の定める開発行為として擁壁を築造する場合は、宅地造成等規制法令の技術基準に適合するものとし、工事の許可や完了検査を受ける必要があります。
 これらの完了検査について検査済証が存在する場合、少なくとも擁壁の設計は適法であること(建築確認や工事許可の段階で審査されています)、完了検査段階で外観上明らかな施工不良がないことはほぼ確実といえます。
 もっとも、建物にせよ擁壁にせよ、設計が適法+工事完了段階で外観上明らかな施工不良がないからといって、外観検査では容易に判明しない施工不良が存在しないとは限りませんが、法令の手続を経ずに築造されている擁壁に比べればその可能性は高くないといえるでしょう(建築確認や工事許可段階の審査、完了検査のいずれも異常にザルというレアケースでもない限り)。
 建物建築にあたって問題となる敷地の安全や、がけ条例の運用関係でも、擁壁築造工事に関する検査済証が存在し、劣化事象も見られなければ、当該擁壁に近接した位置の建物建築について、崖対策を不要とする特定行政庁がほとんどだと思われます。
 法令の手続に則った擁壁築造工事の建築確認済証や許可書、検査済証は、土地購入時に売主から交付されることもありますが、売主が所持していない場合は確認・許可機関から入手できる場合もあります(しっかりした仲介業者だと、売主に代わって調査・入手済みということもあります)。

◇法令手続の遵守が確認できない場合
 法令の規制対象であるにもかかわらず、所定手続を経ずに築造された擁壁があるとすれば、それ自体が設計施工不良を疑わせる事情といえます。擁壁築造(土地造成・開発)時期が古いために、所定手続を経ているかどうかの確認ができない(土地所有者が関係書類を所持していない・保存期間が過ぎており自治体からも入手できない)ような場合も要注意です。
 擁壁築造時期が非常に古く、上記各法令の施行前であるような場合は、ほぼ確実に現在の法令基準に違反していると言ってしまって良いように思います(擁壁築造の技術基準や手続について定める建築基準法・宅地造成等規制法の各施行令の施行年は、それぞれ昭和25年、昭和37年です)。

◇法令手続の遵守が求められない場合
 高さ2m以下で宅地造成等規制区域外の擁壁築造(新築)は、建築基準法や宅地造成等規制法の規制を受けません。しかし、築造について法令が規制しない擁壁が、法令の技術基準に全く適合しない構造である場合、法的な問題が生じないというわけではありません。
 がけ条例が近傍の建物建築を規制する「がけ」の高さは、自治体によって2mだったり3mだったりしますが、「建築物ががけ崩れ等による被害を受けるおそれのある場合においては、擁壁の設置その他安全上適当な措置を講じなければならない」(19条4項)としている建築基準法は、「建築物」の「がけ崩れ等による被害」を防止すべき崖の高さについて規定していません。崖の高さが2m未満でも、それが自立性の乏しい自然法面であったり、安全だと判断できない擁壁で土留めされているような場合、その崩壊の影響を受ける位置に建物を建てるのであれば、何らかの「安全上適当な措置」が要求されることになります。
 建物の敷地という視点を外れてみても、購入した土地の既設擁壁がそれほど高くないからといって、高さのある(法令の技術基準に適合する)擁壁が耐えられる災害によって崩壊してもやむを得ないと考える買主はいないのではないでしょうか。
 現在確立している擁壁設置の技術基準は、法令の技術基準と基本的に一致しています(法令が規制しない高さの擁壁について、築造や安全性判断に関する別途の基準が存在するわけではありません)。
 つまり、それほど高さのない擁壁であっても、法令の技術基準に適合していないものは、法令基準に適合する擁壁であれば耐えられる災害に耐えられない可能性があると判断することになろうかと思います。

(続く)

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