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コラム/近況報告
掲載日: 敷地・地盤

タイトル擁壁がある土地を購入するとき気をつけたいこと(1)

 弁護士あるあるではないかと思うのですが、重点取扱い分野の中でも、割と細部まで似ている事案のご相談や依頼が同時期に重なることがあります。
 私の例でいえば、建築土木分野という大きなくくりの中でも、木造住宅の省令準耐火構造違反、非木造住宅の雨漏り、マンション外壁タイルの剥落、工事途中の施工不良発覚と引渡までのトラブル、リフォーム工事の欠陥・・などなど、中・小分類でみた類似事案のご相談や依頼が短期間に重なるというのがあるある事象です。
 ここ数年は特に、塀や擁壁の欠陥に関する事件が続く印象でしたが、一昨年、「擁壁が設置された土地の工事と関連して、もともと危険な(法令技術基準に違反した)擁壁が崩壊する」という、良く似た2つの事件を受任しました。
 この2件は、処理方針・請求の主要部分(土地購入者として、売主に対しては売買契約の無効や解除、工事の施工業者に対しては工事上の注意義務違反による損害賠償を請求)、複数関係者の対応・責任競合の問題から交渉を早期に断念して提訴に至ったという点も共通しています(うち1件はすでに訴訟上の和解が成立したものの、もう1件は現在も係属中で諸事情により終わりも見えておらず、解決期間は大きく違うこととなりましたが)。
 この2件に限らず、私が過去に取り扱った擁壁関連の事件全てに共通しているのは、依頼者の方が、擁壁の危険性について全く認識がないまま土地を購入され、擁壁の不具合や崖崩れ問題の当事者になってしまったという点です。
 この記事では、擁壁が設置された土地(または、擁壁が設置された土地や道路に隣接する土地)の購入を検討する際の要注意事項について、擁壁が安全でなかった場合に生じうるリスクと併せてまとめてみます。

◆そもそも、擁壁とは危ないもの
 改めてですが、擁壁とは、土地の高低差によって生じる側面に設置する構造物です。この側面の地盤が自立する岩盤であったり、勾配が緩やか(土の安定角以下)であれば基本的に土砂崩れの危険性はありませんが、勾配が土の安定角を超える場合には、土留めとして擁壁が必要になります。
 つまり擁壁は、常に背面の土を支えている、言い換えれば背面から土圧を受け続けているもので、それに耐えられるだけの安定性を備えていなければなりません。地震や地中への浸水によって背面土圧は増大するので、擁壁は一定レベルの耐震性や排水性も必要であり、法令や各種団体が、擁壁の構造について技術基準を定めています。擁壁に、こうした技術基準に適合しない欠陥があるとすれば、(健全な擁壁であれば耐えられるはずの)災害時などに崩壊して土砂崩れの危険があるということです。
 私は職業病で、擁壁際の道路を通る際などは設置基準違反をついチェックしてしまいますが、建築土木分野に特に縁のない人には、擁壁の欠陥=土砂崩れの危険という意識はあまりないでしょうし、そもそも擁壁という単語すら知らないという方も少なくないと思います(豪雨の多い近年、擁壁が設置された土地の崖崩れに関する報道が増えた印象があり、擁壁が必ずしも安全なものでないという認識も少し広がっているかもしれませんが)。
 擁壁が設置された土地の購入を検討される場合、擁壁の安全性に問題はないかという視点を持っているだけでも、トラブルの事前回避に役立つと思います。

◆危険な擁壁が設置された土地を購入するとどうなる?
 建築物に絶対的な安全性を求めることはできません。擁壁にも、巨大隕石が落下しようと、マグニチュード10の直下地震が起きようと、1時間1000㎜の雨が降ろうと壊れないという安全性を期待するわけにはいかず、この記事でいう擁壁の安全性とは、法令や土木工事の一般的知見等、現在の技術基準に適合しているという安全性を指すものとします。
 そうした視点から、危険な擁壁(上記「安全性」がない擁壁)が設置された土地、またはそのような擁壁に近接する土地を購入した場合の具体的リスクについて考えてみます。
 先述の通り、危険な擁壁は、安全な擁壁であれば耐えられるレベルの地震や大雨で崩壊し、土砂崩れを起こす危険性があります。隣地や道路内の擁壁が崩壊した場合、自分の土地や建物、最悪の場合は人身被害につながりますし、自分の土地の擁壁が崩壊して隣地や道路、人身に被害を及ぼした場合は、困難な原状回復や巨額の損害賠償義務を負うリスクがあります。
 幸いにそのようなリスクが現実化しなくても、安全性が確認できない擁壁(崖)が絡む土地は、法令等の規制によって、建物を建築する際に大きな制約を受けることになります。
 ざっくり言えば、建築基準法の「敷地の安全」に関する規定や、県・市区町村のいわゆる「がけ条例」により、安全性の確認できない崖(擁壁)の近くに建物を建築する場合、①擁壁を安全なものに造り替える、②崖下地の場合は、擁壁と建物の間に土留め施設を設置する、③崖上地の場合は建物の深基礎や基礎杭を、崖起点の安定勾配線より深くまで施工するなどの対策が必要になります。

福岡県「既存擁壁に近接する土地で建物を計画している皆様へ」より転載

 建物の深基礎や杭基礎(③)は、崖崩れ対策のほかに、軟弱地盤対策(建物沈下対策)として採用されることも多いのですが、建築費は当然高くなります(軟弱地盤ではない場合、建物の崖崩れ対策のためだけに、その費用を支出することになります)。
 土留め施設の設置(②)は、(高さ・幅などの規模にもよりますが)設計施工費用がさらにかさむうえ、土地の利用スペースが大幅に削られます。
 最も安全なのは擁壁の築造替え(①)ですが、費用は千万円単位以上になることがほとんどです。そもそも、擁壁が自分の土地ではなく隣地や道路内に設置されている場合には、こちらの一存で築造替えなどできません。
 擁壁(崖)が崩れた場合にも影響を受けることのない位置に建物を配置する計画としても良いのですが、一般規模の宅地に一般規模の住宅を建設する場合、敷地にそれほどの余裕はありません。

 

   先般解決した事件で問題となった土地は、隣地境界部には擁壁(隣地内設置)が立ち上がっており、道路境界部には擁壁が立ち下がっていました。
 どの擁壁も法令基準に合致しないため(土地の造成時期自体、擁壁の技術基準に関する法令の制定前でした)、この土地上の建物新築について建築確認を得るには、下図のような崖対策(隣地側の崖との関係では土留め設置、道路側の崖との関係では基礎杭等施工)をとらなくてはなりません。莫大な費用がかかるうえに、土留め施設の施設によって建物配置スペースは狭小になりますが、そんな計画であっても、建物を建てるならどうしてもこの土地にしたいという人はまずいないでしょう。

 つまり、危険な擁壁が絡む土地は、計画の現実性や経済性といった問題から、事実上、建物が新築できない(建築確認を得られない)ことがあります。
 また、建築基準法やがけ条例が目的としているのは、あくまで(建築しようとする)建築物のがけ崩れ被害の防止です。
 上記①~③の崖崩れ被害防止策のうち、擁壁の築造替え以外の対策は、仮に崖(擁壁)が崩壊したとしても建物が沈下や損壊の被害を受けないようにするものであって、崖崩れ自体の防止にはならないことに注意が必要です。建物が無傷であっても、敷地の崖が崩れた(または、隣地や道路の崖がこちらの敷地内に崩れてきた)場合には、当然、後始末の問題が出てきます。人身被害となれば取り返しがつきません。

(続く)

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