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コラム/近況報告
掲載日: 敷地・地盤

タイトル事例のご報告(3) ◆擁壁再築費用請求事件②◆

 裁判では、擁壁の危険性について、各種の擁壁設計施工基準に違反していること、コンクリートブロック塀は躯体の一体性が乏しいこと、躯体に一体性があるものと仮定して構造計算した場合も、擁壁としてはもちろん、塀としても安全性が認められないという結果になること、現に擁壁には傾斜やはらみ、控え壁の崩壊といった不具合が生じていて、その影響が建物付属設備や外構部にまで及んでいることなどを主張立証しました。

 被告らは諸々反論し、特にハウスメーカーが、建物の設計者は敷地や擁壁の安全性調査義務を負わないという主張を繰り返しました。
 これに対して、建築基準法の規定の趣旨からすれば、設計者は、敷地の安全性調査の一環として擁壁の安全性調査義務を負うこと、特に、コンクリートブロック造のような類型的に危険性の高い擁壁の安全性については念入りな調査を要すること(もっとも、本件擁壁の危険性は、目視程度のごく簡易な調査からも明らかであったこと)など、各自治体の建築確認運用マニュアル等を引用しつつ主張立証しました。
 裁判の中盤くらいからは、事実上、擁壁再築の必要性と、被告らの責任を前提とした形で和解協議が進められました。原告側としても、擁壁の再築については損害賠償という形の解決より、ハウスメーカーの責任で工事を実施してもらいたかったのですが、最終的にハウスメーカーが工事の実施も損害賠償も拒否したため、証拠調べを経て判決となりました。

 結果、ほぼ全面的に原告勝訴となりました。良い判決だなと思ったのは、建物設計者の責任について、「建築物ががけ崩れによる被害を受けるおそれがある場合に・・安全上適当な措置を講じる(建築基準法19条4項)」前提としての既存擁壁の安全性調査義務を認めただけでなく、「本件擁壁の安全性に問題があることが一見して明らかであり(略)人的・物的被害を生じさせる危険性がある一方で、仮に計画位置に本件建物を建築した場合、擁壁再築工事が困難となるなどし(略)危険性がある状態を長引かせたり(略)危険性を増大させるおそれもあったことからすれば、建築基準法1条所定の目的等に照らしても、被告(略)は、原告らに対し、信義則上の義務として、下記(略)義務(敷地・擁壁の安全性調査義務)と同様の義務を負っていたというべきである」として、建物の崖崩れ被害を避けるためだけではなく、将来の擁壁再築工事を困難とする位置に建物を配置しないためにも、設計者は擁壁の安全性調査義務を負うと認めてくれている点です。

 敷地が危険な擁壁で土留めされている場合の建物設計上の配慮については、「横浜市がけ関係小規模建築物技術指針―がけ上編―」(20頁)でも、「がけが崩壊する場合等、 将来擁壁を築造替えすることをあらかじめ考慮し、施工性を含め新設擁壁のスペースを確保しておくことが必要である」と指摘されているところです。 
 横浜市は、この技術指針で、崖地上の建物建築に関する注意点や、既存擁壁の安全性確認ポイントについて詳細に規定・解説しており、崖地対策についてかなり高い意識を持っていることが窺えます。

 一方、福岡市では、どういうわけか、他の地域よりも崖地に関する規制が緩いように思われます。
 例えば、各自治体は、建築基準法施行条例(いわゆる「がけ条例」)として、崖の上下の土地に建物を建てる際の条件を規定しています。その対象となる崖の高さを、多くの自治体は2mに設定しているのですが、福岡市は3mに設定しています。
 また、コンクリートブロック塀を土留めとして使用できる上限の高さを、福岡市は1mに設定していますが、これは、各自治体の規準のなかでは相当に高い方です(現在では、高さ制限のほかに「土質等を考慮して安全性及び耐久性に十分に配慮した場合」という条件が付されていますが、以前はこの条件すら明記されていませんでした)。
 これに対して、北九州市は、設計者が安全と判断したものという条件付きで、高さ上限を60㎝に設定しています。また、大牟田市は、福岡市と同じ1mに設定していますが、コンクリートブロック3段積み以上(高さ約60㎝以上)の場合、一定間隔の控え壁を設けることを要求しています。

 話がずれてしまいましたが、判決は双方控訴せず確定し、被告らから判決認容額+遅延損害金の回収も無事に済みました。
 残るは擁壁再築工事の実施なのですが、依頼者の方が様々な個別工事を発注して工事全体の段取りをするのは難しいので、私がご紹介した建築士さんが窓口となって動いてくださっています。
 その方が、被告ハウスメーカーが裁判で提出していた擁壁本体工事の見積業者に連絡を取り、工事の受注が可能かどうかを打診されたところ、ハウスメーカーとの関係があるので工事は引き受けられないとの回答だったそうです。また、ハウスメーカーの計画では、新設する擁壁の下に杭打ちをすることになっているのですが、この土地は接道道路の幅員が狭く4tトラックが入らない関係上、この杭打ちも難しいということがわかり、現在、工事計画自体の見直しを図っているところです。
 依頼者の方が安心できるように、なんとか早急に計画が固まって、工事が無事に行われることを祈るばかりです。

(2018/10/29追記)
時々、弁護士の方から判決文の提供についてお問い合わせがあるので、アップしました。
福岡地判H28.8.8

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