建物の欠陥=施工不良と思いがちです。確かにそうなのですが、欠陥の発生要因は設計にあるというケースもあります。設計(設計図書の記載)が指示する施工方法そのものが欠陥にあたる場合や、必ず欠陥に結びつくわけではないものの、施工に特別の注意を払わないと欠陥が生じやすい設計を採用している場合です(※)。
(※)なお、後者の場合に施工者が免責されるわけでないことはもちろん、前者の場合であっても、欠陥について施工者が免責されるとは限りません。施工者としては、「設計通りの施工をしたのであって責任はない」という言い分でしょうが、不適切な設計であることが明らかなのに、設計者や建築主に指摘や相談をせずそのまま施工したというような場合、その欠陥について施工者が法的責任を問われることはあります。
個人的に要注意だと思うのは、いわゆる建築家とよばれるジャンルの建築士が手掛けるような、デザインや建材が斬新な設計です。安全性や機能性の点でそれなりに合理的な標準設計と比べて、意匠の独自性を追求した設計は、性能面ではマイナス要素となることが多く、施工に慎重な配慮をしないと欠陥につながりやすいものです。
*意匠と安全はトレードオフになりがち
高名な建築家が設計受注する建物はそれなりの規模・構造で、設計上の構造安全性については構造計算で確認されている(法令上義務づけられている)ケースが多いのですが、よく見られる欠陥として雨漏りがあります。外観デザインにこだわった屋根や外壁が、標準的な仕様(軒がしっかり出ている、雨水が滞留しない屋根・外壁形状、一次防水層での止水を基本とする外装材・サッシ選定など)とはかけ離れた設計であるために、建物のあちこちから雨漏りしたという事件を私は複数経験しています。
法令で構造計算が義務付けられていない場合(いわゆる4号建物)だと、デザインや開放感を重視した設計の構造安全性にも疑問符がつくことがあります。
*欠陥とはいえなくても問題が・・
意匠にこだわりすぎた設計は、欠陥とはいえない(またはグレーな)仕様・施工であっても、機能的に安全でなかったり、使いにくい・住みにくい建物になりやすいという問題もあります。
以前受任した建築家設計住宅の雨漏り事案の例では、建物のLDKと2階廊下部分が広大な吹き抜け空間となっており、建築主の方は、エアコンの効きが非常に悪い、光熱費は異常に高いと嘆いておられました。その2階廊下やバルコニーに設置された手すりは、デザイン性しか考えられていない、子供が転落しそうな仕様のもの(手すり子幅が異常に過大)でした。ユニットバスでない浴室(眺望は最高)は、コンクリート打ちの浴槽にお湯を入れると、あっという間に冷えてしまうそうです。
*建築家の問題姿勢
このような設計をする建築家は、建築物を自分の芸術作品として捉える傾向が強過ぎ、その作品を使うのも費用を出すのも他人であるという意識が欠落しているように思います。
特殊な設計であり、欠陥施工とならないように設計図書などで詳細な指示(最低限、詳細施工図の承認)をすべきなのに、意匠性とは無関係な設計指示や、施工者との協議は一切ないというのはデフォルトといってよいかもしれません。
建築費用の予算制限がある中で、建築家が建築主に提案するコスト削減の提案も、設計デザインを極力変えないことばかりが優先され、安全性・機能性を下げる内容になっているという印象です。
この手の建築家には、建築関連の受賞や雑誌掲載(建物の写真映え)を念頭において、性能的に変な設計をする人もいます。先述の雨漏り住宅は、屋上の一部区画(前面道路から見えない区画)の排水については外壁に竪樋が設置されているものの、(建築家が写真を撮りたい)建物正面の外壁には竪樋が全く設置されていませんでした。その区画の排水は、屋上から数十㎝突き出した横菅の先端から、地表まで直に水が落ちるという謎の形式(究極の間接排水?)になっており、地面は広範囲に陥没していました。
この雨漏り住宅は、建築家ホームページの目玉作品として大々的に掲載されているほか、様々な建築雑誌に紹介され、何らかの受賞もしているようです。
*建築計画は慎重に
建築家の設計住宅は、見た目は確かに芸術品で、かっこいいです。その芸術性と、安全性・機能性が両立した設計をする真に素晴らしい建築家もいると思います。
とはいえ、独自性の高い設計は、どうしても安全性や機能性を犠牲にしがちです。欠陥を生まないためには、施工に関する設計上の詳細指示や適切な工事監理が求められるのは当然として、多額の建築コストを許容しない限り、意匠性と性能が両立しないという建築計画もあると思います。
建築主として、建築家に高額報酬で設計(監理)を依頼したのに、こんなはずじゃなかったという事態に陥らないためには、建築家・施工会社の選定はもちろんのこと、建築予算や建築後のランニングコストなど、色々と考えるべきことがありそうです。
*この問題について、新建築家技術者集団の機関紙「建築とまちづくり(2021年6月号)」に、他の弁護士と連名で寄稿しました。ご興味のある方は、原稿をご覧ください(青文字が私の執筆箇所です)。