Topページコラム/近況報告法律 › 欠陥住宅全国ネット福岡大会に参加しました-マンション瑕疵担保責任承継問題-
コラム/近況報告
掲載日: 法律

タイトル欠陥住宅全国ネット福岡大会に参加しました-マンション瑕疵担保責任承継問題-

◆久々に、リアル参加者の多い全国大会でした!
 5月28日(土)、欠陥住宅被害全国連絡協議会(通称・欠陥住宅全国ネット)第51回福岡大会に参加しました。
 コロナ禍での延期も経た第48回奈良大会以降、全国大会は現地リアル参集とオンライン参加のハイブリッド形式で行われ、以前は2日間だった開催日程は1日に短縮されています。
 奈良大会の頃は、現地事務局や登壇者など限られたメンバーのみがリアル参集していましたが、コロナが若干収束した状況下の今大会では、地元の福岡組やイベント好き関西勢の会員を中心に、リアル参加者がハイブリッド導入後最大となる約40名にのぼったようです。

◆マンション瑕疵担保責任承継問題 -管理者は単独で訴訟追行できないのか?-
 今大会の一大テーマは、以前から全国ネット会員で議論してきた「マンション瑕疵担保責任承継問題」です。
 区分所有建物(マンション等)共用部分の欠陥について、販売事業者に瑕疵担保責任(契約不適合責任)に基づく損害賠償請求権を行使する場合、現行の法制度と、後述の東京地裁判決を前提とする限り、大きな不都合を伴います。

*区分所有法26条
 昨今問題視されているのが、訴訟の当事者適格です。

*******************************************今大会の資料(愛知県弁護士会・水谷大太郎弁護士作成)より引用
*******************************************

 金銭債権は、いわゆる「可分債権」です。マンション共用部分の欠陥に係る損害賠償請求権も、持分に応じて区分所有者に帰属することとされています。
 一方、マンション共用部分(躯体等)は物理的に不可分です。そして、その欠陥の補修には相当補修費用の全額が必要ですから、区分所有者全員が自らに帰属する損害賠償請求権を個別行使したうえ、回収金を管理組合に拠出しなくてはなりません。
 それはあまりに不便ですし、自らが回収した賠償金を懐に入れてしまう不埒な区分所有者がいた場合には、管理組合として、欠陥の補修実施が困難になってしまいます。
 機能している管理組合を前提とする限り、管理者(通常のマンション規約では理事長)が各区分所有者を代理し、損害賠償請求権の一元的行使や賠償金の受領が可能である制度が、建物の適正管理に適うものといえます。

 そこで、平成14年改正の区分所有法(26条2項・4項)により、管理者の権限が以下の通り明確化されています。
(区分所有法)第二十六条 
2 管理者は、その職務に関し、区分所有者を代理する。第十八条第四項(第二十一条において準用する場合を含む。)の規定による損害保険契約に基づく保険金額並びに共用部分等について生じた損害賠償金及び不当利得による返還金の請求及び受領についても、同様とする。
4 管理者は、規約又は集会の決議により、その職務(第二項後段に規定する事項を含む。)に関し、区分所有者のために、原告又は被告となることができる。

 マンション共用部の欠陥をめぐる訴訟では、この区分所有法26条に基づき、管理者(=理事長)を当事者とし、損害全額を対象として提訴ないし応訴するという運用が定着していました。
 私が関わった事件でも、そうした運用について、裁判所や相手方から、何らか物言いがついたことは全くありません。

*東京地裁平成28年7月29日判決
 マンション欠陥問題の解決に激震をもたらしたのは、標記の東京地裁判決です。

 この裁判例の事案は、マンション共用部分の欠陥(外壁タイル剥落)について、管理組合の管理者(原告)が、区分所有法26条4項に基づき、被告会社(同マンション分譲業者)及び相被告会社(販売代理業者)らに対し、不法行為・債務不履行・瑕疵担保責任に基づく損害賠償を求めたというものです。
 提訴にあたり、理事長に当該訴訟追行権を付与する旨の管理組合総会決議がなされています。なお、当該マンションは、分譲当初から訴訟の口頭弁論終結時までの間に、全84戸のうち9戸について転売(区分所有者の変更)が生じていました。
 判決は、「一部の区分所有者が共用部分等について生じた損害賠償請求権等を有しておらず,管理者が区分所有者全員の請求権を代理行使することができない場合にも,区分所有法26条4項に基づき,管理者たる原告に区分所有者全員,あるいは,権利を有している一部の区分所有者のための訴訟追行権が認められるか否かが問題」であるとして、「区分所有法26条4項の『区分所有者のために』とは『区分所有者全員のために』と解釈すべきであり,本件のように各区分所有者に個別的に発生し帰属する請求権に係る訴えについては,区分所有者全員に当該請求権がそれぞれ帰属し,管理者が区分所有者全員を代理できる場合に限り,規約又は集会の決議により,管理者が区分所有者全員(規約の設定又は集会の決議における反対者を含む。)の利益のために訴訟追行をすることを認めたものと解するのが相当である。」「・・本件口頭弁論終結時において,本件各請求権は本件マンションの区分所有者全員に帰属してはおらず,管理者は,本件マンションの区分所有者全員が本件各請求権を有することを前提とする区分所有法26条4項の授権決議を得ていない。したがって,本件管理組合の管理者たる原告が区分所有者全員を代理することはできないから,原告は,本件各請求権に係る本件訴えの原告適格を欠くといわざるを得ない。」と判示しました。

*東京地裁判決の問題点
 上記東京地裁判決の判断は非常識というほかなく、実務上の不都合(マンションは分譲後まもなくの時期から転売が始まるものであり、分譲当時の全区分所有者から損害賠償請求権の譲渡を受けるのは困難⇒ほとんどの事案で、請求権の一元的行使・補修の実現は不可能になる)、法理論(区分所有法の立法・改正趣旨)のいずれの観点からも、厳しい批判が加えられているところです。
 この判決が実務に及ぼす影響について、先輩Y弁護士が講師を務められた勉強会のレジュメには、以下の旨が記されています。
「たかが地裁判決、たまには馬鹿な判決も出るから無視すればいいだけではないかと思われるかもしれないが、これほど問題化しているのは、以下の事情による。
①2017年出版『建築訴訟(最新裁判実務大系〈6〉)』(青林書院)に、東京地裁判決の陪席裁判官が執筆した論文が掲載されている。その内容は、この判決とほとんど同じである。
②上記書籍の編集者は、東京地裁建築集中部(民事22部)の部総括判事かつ、東京地裁判決の裁判長である。
③上記書籍は、実質的に東京地裁建築集中部の裁判官が執筆したバイブルとして、各地の裁判所に対する権威的影響がある。」
「管理組合実務との隔たりがあまりに大きく、この判決が今後ずっと支持されるとは考えにくい。しかし、未だ覆っていない以上、どこかの裁判所で否定する判断がなされるまでは無視するわけにいかない。」

*東京地裁判決の克服
 昨年12月に行われた日弁連シンポジウム「欠陥マンション訴訟の原告は誰?~東京地裁平成28年7月29日判決の批判的検討~」では、講師・パネリストを務められた学者や弁護士(区分所有法に精通する方々)から、東京地裁判決の問題点や対策について、わかりやすい解説や提言がなされています。
 この判決の克服には、(現行)区分所有法の解釈論と、立法的解決という二つの切り口があります。
 前者については、区分所有法26条4項「区分所有者のために」という文言を、「原告または被告となりうべき区分所有者全員のために」と解釈すべきという見解や、その他いくつかの考え方が示されています。
 後者には、①区分所有権の譲渡に伴い、共用部分の欠陥に係る損害賠償請求権が譲受人に当然承継される制度の新設、②上記欠陥に係る損害賠償請求権を、発生当初から区分所有者全員(管理組合)に帰属させる制度の創設などの案があります。
 立法的解決を要するという立場は、現行区分所有法は管理者の単独訴訟追行権を認めていないとする見解と親和的な面があり、立法化に向けた活動が実らなかった場合のリスクを伴うかもしれません。
 しかし、個人的には、立法による解決が明快で良いと思います。なお、平成14年区分所有法改正に際しては、区分所有権譲渡に伴う損害賠償請求権の当然承継についても法制審議会で議論されたようです。
 結局、「区分所有権の売買価格に瑕疵の存在が織り込まれていた場合、意思に反する擬制により売主に不測の損害を与える」ことなどを理由に立法化は見送られたようですが、私としては全然妥当に思えません。共用部分の欠陥を織り込んで、市場実勢価格より安値でマンションを売却する事例があるとしても、売主である元区分所有者が、上記損害賠償請求権(持分額)について、マンション販売事業者に対して個別に権利行使することなど現実的にありうる(売却価格と実勢価格との差額について、上記損害賠償請求権の個別行使による補填を予定している)のでしょうか。
 マンション共用部分の欠陥に係る損害賠償請求権は、当該欠陥是正のために行使されるべきものであり、すでに区分所有者でなくなった者が権利者の地位に留まるという考え方には非常に違和感を覚えます。私の感覚からすると、上記②案による立法的解決が一番しっくりくるところです。

*管理者が訴訟追行できたとして、全額請求できる?
 なお、東京地裁判決の立場に拠らず、「一部の区分所有者が共用部分等について生じた損害賠償請求権等を有しておらず,管理者が区分所有者全員の請求権を代理行使することができない場合にも,区分所有法26条4項に基づき,管理者たる原告に・・訴訟追行権が認められる」と考えた場合も、当該訴訟追行権は「区分所有者全員」のためか、もしくは「権利を有している一部の区分所有者」のみを対象とするのかという問題が残ります。
 マンション共用部分の欠陥に係る損害賠償請求権が、持分割合に応じて区分所有者に帰属するという通説(分割帰属説)によるならば、管理者に認められる訴訟追行権は、「権利を有している一部の区分所有者」を対象としており、それら区分所有者の持分に応じた損害額のみを請求できるというのが、素直な解釈だと思えます。
 しかしこれでは、マンション共用部分の欠陥に係る損害賠償請求権は、当該欠陥是正(当然、相当補修費用の全額を要する)のために行使されるべきだという原則論になじみません。
 管理者が、組合員全員・損害全額についての訴訟追行権を有することを明確化するには、やはり立法的解決が不可欠ではないでしょうか。

*福岡大会での議論・事例報告
 今大会では、水谷大太郎弁護士による講義(上記東京地裁判決を踏まえた問題の所在、克服案の整理)の後、リアル参加者による若干の議論が行われました。
 「なるほど!」と感服したのは、「そもそも、マンション共用部分の欠陥に係る損害賠償請求権について、金銭債権だから当然に可分債権だという考え方は妥当しないのでは」という先輩M弁護士のご指摘でした。
 マンション共有部分自体は分割できないのに、その欠陥補修に係る損害賠償請求権が個々の区分所有者に分割帰属するという扱いそのものが不適当だという感覚を、すっきりと整理してくださった感じです。
 現在進行形で共用部分の欠陥について利害関係を有する現区分所有者、もしくはその総体である管理組合が一元的に行使できる損害賠償請求権を観念するのが、やはり妥当ではないでしょうか。
 この権利は、区分所有者の「共有」ではなく、個別行使できない「合有」だと解すべきだというのが、先輩Y弁護士のご見解です。
 その後、先輩K1弁護士が担当されたマンション外壁タイル剥落事件について、複数の元区分所有権に連絡を取ったり、損害賠償請求権の譲渡を受けるのに非常に苦労したという事例報告がありました。事案の本質とはまるで無関係かつ無益なご苦労であり、この問題は可及的速やかに立法解決がなされなければならないという思いを強くしました。
 すでに、京都弁護士会は「区分所有建物の共用部分に関する損害賠償請求についての立法措置を求める意見書」を発出しており、これに尽力された同弁護士会の先輩K2弁護士から、概要のご説明がありました。

◆私自身の困りごと
 全国ネット福岡大会というより、マンション瑕疵担保責任承継問題について熱めに語ってみた今回の記事ですが、私自身は、マンション欠陥問題についてご相談や依頼を受けるにあたって、上記東京地裁判決のせいで具体的に困ったり悩んだりということは、今のところ経験していません。
 東京地裁判決との関係で悩みが生じるのは、マンション共用部分の欠陥について、販売事業者(デベロッパー)に対する瑕疵担保責任を追及する局面です。
 が、マンションの欠陥に関するご相談で近年多いと感じるのは、
*販売事業者に責任を問いたいパターン
 →「住宅の構造耐力上主要な部分等」の瑕疵ではなく、すでに瑕疵担保期間(概ね2年未満)が経過している・・

*販売事業者はすでに倒産しており、施工業者に責任を問いたいパターン
 →施工業者に対する損害賠償請求は、契約責任(瑕疵担保責任)ではなく不法行為責任として検討することになる。
 不法行為に基づく損害賠償請求権は、基本的に現区分所有者に帰属する(前区分所有者からの権利承継を考えなくて良い)のでその点は無問題だが、この欠陥は、不法行為責任の対象となる「建物としての基本的な安全性を損なう瑕疵」とは言えないのではないか・・

*販売業者も施工業業者も倒産しており、(設計)監理者に責任を問いたいパターン
 →「基本的な安全性を損なう瑕疵」といえそうだが・・しかし、工事監理者の過失を問う(注意義務の定立とその違反立証)は厳しいのではないか?!
・・といった類型です。

 デベロッパー倒産するなー!瑕疵担保期間を延ばせー!と叫びたくなってくるのでした・・。

ページも先頭へ