今年、リフォーム工事に関する事件が提訴に至らず解決しました。
設計施工の瑕疵だけでなく、工事中に続発したトラブルの処理もあって非常に手間がかかったものの、学びも大きい事件でした。
事案の個別性が強すぎて、今回の経験がこの先に生きるのかは疑問ですが、教訓としておきたいことその他、いくつか書いてみようと思います。
◆耐震補強の設計施工は難しい
私が、耐震診断に基づく耐震補強事案を扱ったのは今回で2度目です。
今回の事案では、耐震補強に加え、上階減築その他のリフォームも行われているのですが、元請の監督が機能しておらず、上階減築部分の新設小屋組がでたらめに施工されたこともあって、これでは耐震補強計算が成り立つはずがなかろうという状態でした。
そういった特殊性がないケースでも、耐震補強を適正に設計施工するのはかなり難しいように思います。耐震診断には、一般診断法、精密診断法という二つの手法があり、一般診断法による耐震補強設計は、基本的に建物解体調査を経ずに行われるため、壁内部や小屋裏の状況(軸組の詳細構造)が判明するのは着工後となります。それが耐震補強設計の前提とずれているにもかかわらず、設計者との連携不足で計画の見直しがないまま、ずさんな施工がされてしまう例は少なくないように思います。精密診断法による場合であっても、元請の監督不十分や担当者の知識不足によって、下請による不適切な施工が見逃されるということは普通にありそうです。
耐震補強工事は少なくない費用がかかり、適正な設計施工のハードルが高いことを考えると、建物解体新築の方が諸々の点で合理的なのではと思えるところです。が、費用は新築とさして変わらないことを承知のうえで耐震補強を選ばれる方は、その建物への思い入れや諸事情があったりするわけなので、なかなかに難しい問題だと思います。
◆調査事項の詰めが甘く、事後的に苦労するはめに
今回扱った事案の建物(本件建物)は、昭和初期に建てられたいわゆる既存不適格でした。
既存不適格建物は、所定の範囲を超えて増改築・大規模修繕・大規模模様替を行う場合、緩和条件に該当しなければ、建物全体を現行法の基準に適合させなくてはなりません。工事が上記範囲を超えない場合にはその必要がない(既存不適格緩和)ということになっています。
今回、いつも頼りにしている有能建築士さんが、建物から外構から綿密に調査してくださったのですが、出来上がった調査報告書で建基法違反として指摘された施工不良は、既存不適格緩和を考慮しない新築工事前提となっていました。こ、これは・・ということで、私の方で、耐震補強の契約仕様違反や、大規模模様替前提の建基法違反に訂正するなど全面的な書き換えを行い、既存不適格緩和の対象である現行法違反については、可能な範囲で、常識的な施工水準違反という形に置き換えました(もちろん、建築士さんの最終確認とご承認をいただいています)。
既存不適格関係の建基法の規定は非常にややこしく、そこに法改正が絡んだりもするので、建築士でもリフォーム設計に縁遠い方などは法令の読み解きが難しいと思います。私は、今回の調査(予備調査+本調査)に予備調査段階から関わっていましたので、新築工事ではないことを前提に、本調査の対象事項について建築士さんときっちり詰めておけば良かったと反省しきりです。
弁護士経由で建築士の方に新築工事の瑕疵調査を依頼する場合、
*工事契約書や法律が規定する契約不適合(瑕疵担保)責任期間の確認
→上記期間が経過している場合、契約不適合の瑕疵は、安全性瑕疵(不法行為責任の対象)にあたらない限り法的責任を問うことができないので、その調査にコストを投じる意味は通常ない
*上記期間が検討している場合、安全性瑕疵と評価しうる瑕疵があるか(その評価は、最終的には裁判官の胸先三寸というところがありけっこう悩ましい)。安全性瑕疵について、不法行為の時効起算点はいつになるか
という観点から調査依頼事項を選定し、
*着工時の法令、契約時(事案によっては着工時)の標準技術、契約仕様(契約不適合の場合)
を基準として調査をお願いするということは意識していましたが、
*リフォーム工事の場合、建基法の増築等に該当するか、該当する場合は既存不適格の緩和措置が絡む調査になるということを、遅くとも予備調査終了段階で建築士の方と詰めておかなくてはならない
ということを学習したのでした。
◆最後に何となく
苦労した事件だったけれど、学びにほとんど汎用性がないというのは冒頭に書いたところですが、その最たるものとして、柱スパンが飛びすぎている新設小屋梁の許容応力度計算(計算①・計算②)をやってみたということがあります。
そういう計算を今後も是非自分でやっていきたいというわけではありませんし、今回限りの貴重な経験ということにしておきたいと思います。。



