Topページコラム/近況報告建物・建築 › 事例紹介(4)◆住宅紛争処理手続ー調停編②ー◆
コラム/近況報告
掲載日: 建物・建築

タイトル事例紹介(4)◆住宅紛争処理手続ー調停編②ー◆

◇外壁タイル問題
*経年劣化?施工不良?施工不良と証明できれば良い?
 調停前から一貫して、販売主は、外壁打継部の防水方法誤り(止水シート施工)や、同所の外壁タイル浮きについては責任を認めていました。
 調停では、管理組合として、他の部分のタイルの浮きも、外壁打継部の欠陥による拡大被害の可能性がある(止水シートに貼られたタイルの浮きによって、そこから雨水が浸入し、他の部分のタイル裏面に伝わってタイルが剥離した)と主張し、浮きやクラックが認められる全タイルの貼り替えを行うよう要求しました。すると、販売主が、外壁打継部以外のタイル浮きは経年劣化だと主張してきたため、経年劣化かそうでないかという論争がしばらく続きました。
 悩ましかったのは、タイル浮きの原因が施工不良であっても、外壁打継部のように「雨水の浸入を防止する部分」の瑕疵やその拡大被害にあたらない限りは、販売主に対する法的責任を問えないという点でした(販売主自身は、あまりその点を意識していなさそうな雰囲気でしたが)。
 そのため、外壁打継部以外のタイルの浮きについて、当該箇所のタイル貼り施工に問題があったと積極的に主張立証するわけにもいかず、単に経年劣化を否定するという曖昧な方針を採るしかしかなかったのですが、これにも苦戦しました。
 外壁打継部以外では、竣工後7年時点のタイルの浮き発生率は2.2%で、これがタイル貼り経年劣化の範囲内か否かという評価が争点となりました。建設省時代の住宅局監修「建築物のLC評価用データ集」では、二丁掛けタイル圧着工法の「破損」の修繕率/周期について、5~15%/10~20年というデータがまとめられており、国交省営繕部監修「建築物のライフサイクルコスト」平成17年版では、モザイク張りのタイル割れ,欠け取替え・撤去・処分の建設費に対する修繕比率(修繕周期10年)が1.9%・1.8%・0.3%(計4%)とされていたりするのですが、これらの数値を使うのはどうも具合が悪そうでした。
 また、上記資料を提供してくださった建築士の方が証人採用された、外壁タイルの浮きに関する平成22年の裁判例では、「一般的に、マンションは築10年ないし15年で大規模修繕工事を行なうところ、その・・際にタイルの浮きが認められるのは、タイル施工部分のうち3%ないし5%程度が通常」「本件マンションの外壁は二丁掛タイル張であるが、一般的に・・築10年ごとに2ないし3パーセントの割合で補修を要するものと考えられている」というくだりがあり、この裁判例に従えば、2.2%/7年というのは通常の経年損耗の範囲内といえなくはなさそうです。
 そのため、「特定建築物の定期調査報告(建築基準法12条1項、2項)に関し、平成20年国土交通省告示第282号(建築物の定期調査報告における調査及び定期点検における点検の項目、方法及び結果の判定基準並びに調査結果表を定める件)は、外壁タイルについて、竣工後10年経過後に初めて、従前の異常歴にかかわらない全面打診検査を要求している」「国交省監修『長期修繕計画標準様式・作成ガイドライン活用の手引き』において、浮きを含む外壁タイル不具合の参考修繕周期は12年とされている」「よって、国交省として、竣工後10年までは経年劣化による外壁タイルの浮きを想定していない」というぼんやりした主張を繰り出すこととなりました。我ながら説得力を感じない立論で、当然相手も乗ってきません。
 こちら(管理組合)としても、外壁打継部以外のタイルの浮きも、外壁打継部の欠陥による拡大被害ではないかと主張はしつつ、浮きの発生位置や白華が見られないことなどからすると、実はその可能性はほとんどないというのが修繕委員会での共通認識でした。

 そういう事情もあって、結局、販売主が補修義務を認めている欠陥と、それ以外の欠陥で管理組合が補修を希望するものについて、販売主が工事一式を入札発注し、後者の欠陥については管理組合が補修費用を販売主に支払うことを合意して調停は落着しました。つまり、外壁打継部以外で浮きやクラックの生じているタイルの貼り替え費用は管理組合が負担することになったのですが、足場代は販売主負担(外壁打継部等の補修のために足場は必須のため)ですから、本件の落としどころとしては妥当な線といえるかと思います。
 しかし、施工業者が倒産していなければ、外壁打継部以外のタイルの浮きについても、試料採取して不具合原因を詳細に調査し、施工不良が証明できそうであれば、浮き発生率には関係なく不法行為責任を追及することができたのにと思うと残念です。

 なお、調停前に販売主が補修義務を争っていた耐震スリット位置の欠陥は、調停でのこちらの主張立証によって販売主負担の補修事項とすることを合意できました。

*高嶋判事論考
 外壁タイルの浮きや剥離は、特にマンションでは欠陥として取沙汰されることの多い問題です。
 この問題について、欠陥住宅問題に取り組む弁護士の間で話題になったのは、判例タイムズ2017年9月号(No.1438)に掲載された、高嶋卓大阪地裁判事の「外壁タイルの瑕疵と施工者の責任」という論考です(この論考は、来月行われる欠陥住宅全国ネット京都大会の検討テーマにもされています)。
 高嶋判示論考によると、調査した範囲では、外壁タイルの欠陥が争点となった訴訟に、先付け工法(型枠にタイルを固定してから躯体コンクリートを打設する工法)や、乾式工法によるタイル施工事案は見当たらず、もっぱら湿式工法(コンクリート躯体にモルタルでタイルを張り付ける工法)の事案のみということです。
 そして、大阪地裁の建築訴訟・調停専門部の建築士調停委員へのアンケート結果から、外壁タイルの施工不良を推認するタイルの浮き・剥落発生率/施工経過年の目安として、①施工後5年以内の発生、②3%以上/5年超~10年以内、③5%以上/10年超~15年以内、④10%以上/15年超~20年以内という基準を採用するのが相当だとされています。
 この基準が目安とはいえ訴訟実務に定着していくとすれば、消費者側は、基準超の事案については立証負担が軽減されるというメリットはありそうですが、一部採取した試料からは明らかに施工不良が窺われるものの(全箇所の試料採取は難しい)、浮き発生率は基準内というような事案だと、逆に不利になるということもありえそうです。また、この目安基準自体の妥当性についても、次回の京都大会で色々な建築士の方の見解をお聞きしてみたいと思います。

 この論考のさらに斬新なところは、「平成20年4月1日、告示第282号により、湿式工法による外壁タイル定期調査の方法として、10年に1回、全面打診調査を実施することとなったことなどによれば、湿式工法による外壁タイルは、遅くとも同日までには施工外の原因により浮き・剥落が生じ得るものという認識が一般化したものとみることができる」として、「同年4月1日以降に施工されたものについては、(中略)施工者としては、施工上の原因により浮き・剥落を生じさせないことはもとより、剥落すれば人の生命・身体に危害を及ぼすおそれのある外壁タイルの施工については、施工外の原因によっても浮き・剥落の生じない工法を選択すべきであったのに、そのようにしなかったということになるから、施工外の原因により生じたものも含め全ての外壁タイルの浮き・剥落につき(中略)注意義務違反があったというべきである」「施工者が施主に対して湿式工法により施工された外壁タイル仕上のデメリットにつき説明を尽くしたうえで、施主において低価格であることなどを優先してあえてこれを選択したといえる事情(中略)がある場合には損害が否定されることになろう」と結論している点です。
 私自身、調停では告示第282号を引用して、竣工後10年までは経年劣化によるタイルの浮きはないはずだと主張はしてみましたが、高嶋判示論考によれば、告示後にはそもそも経年劣化を生じる湿式工法の採用自体がNGで、経年劣化による浮きや剥落についても施工者は不法行為責任を負う(施主にデメリットを説明していた場合はOK)というのです。
 私の認識では、今現在でもモルタル張りは外壁タイル施工として極めてメジャーな工法なのですが、その採用自体が注意義務違反になるとは・・消費者側で建築紛争事件を扱っている私にとってもちょっと斬新すぎると思える説なのですが、これは建築実務の見地からどうなのか、訴訟実務に定着していく兆しはあるのか、ぜひ京都大会で諸先生の意見を拝聴したいところです。

ページも先頭へ